衛星軌道投入ロケット「ZERO」は“みんな”で開発、MOMO2号機の失敗が教訓に:宇宙開発(2/2 ページ)
ロケット開発ベンチャーのインターステラテクノロジズ(IST)が、観測ロケット「MOMO」の開発状況を報告するとともに、衛星軌道投入ロケット「ZERO」の開発に向けた事業体制について発表した。
衛星打ち上げロケットの開発状況「競合の中でもISTは負けていない」
ZEROは、ISTが当初2020年の打ち上げを想定していた衛星打ち上げロケットだ。ZEROが打ち上げるのは質量100kg以下の超小型衛星になる。2018年は、50kg以下の超小型衛星が250基打ち上げられており、今後2024年までの5年間で2000〜2800基の超小型衛星の打ち上げが予定されている。一方で、現時点における超小型衛星を搭載可能なロケットの年間打ち上げ本数は30本にすぎない。「世界的なロケット不足が宇宙開発のボトルネックになっている」(稲川氏)という。
現在の超小型衛星の打ち上げに用いられているロケットにも課題がある。基本的に、ペイロードの大きな大型ロケットに相乗りする形で打ち上げられているが、待ち時間が長く中止も多い、最適な軌道を選べない、打ち上げ時期を選べない、1回の打ち上げコストも高い、といった課題がある。稲川氏は「ZEROのような超小型ロケットによる専用打ち上げの安定供給が、これらの課題を解決してくれる。既に打ち上げに成功しているRocket Labのような企業もあるが、数社ある競合の中でもISTの開発状況は負けていない」と説明する。
また堀江氏は「インターネットの黎明期も価格が高い、通信速度が遅いなどいろいろ言われたが、当時は想像もできなかった現在のインターネットを活用したさまざまな発展があるのは、そのときの挑戦があったからこそ。宇宙開発も同じで、今では考え付かないことが生まれてくるだろう。そのためにも、何十億円といわれる衛星の打ち上げコストを1桁、2桁下げたい」と述べる。
ただし、ZEROは衛星軌道に投入するロケットであり、準衛星軌道に投入するMOMOと比べて「30倍のエネルギー量が必要」(堀江氏)となるなど開発の難易度は高い。稲川氏は「1段式ロケットのMOMOに対して、ZEROは2段式の液体燃料ロケットになる。エンジンの心臓部となる、液体燃料を混合、圧縮するためのターボポンプも新規に開発しなければならないし、軽量化やエンジンの強化も必要だ」と語る。
開発が困難なZEROの開発に向けて設立されたのが、法人サポート組織であるみんなのロケットパートナーズだ。漫画「宇宙兄弟」の編集を担当したコルク 会長の佐渡島庸平氏や、FC今治オーナーの岡田武史氏、宇宙飛行士の山崎直子氏が発起人となり、丸紅、北海道大樹町、レオス・キャピタルワークス、日本創生投資、キャステム、ユーグレナ、バスキュール、JAXAが参画している。
丸紅はMOMOやZEROの販売業務を担当。北海道大樹町は、ZEROの打ち上げが可能な射場の整備を進める。レオス・キャピタルワークスと日本創生投資はZEROの開発費をサポートする。金属部品の鋳造で高い技術を持つキャステムは、ロケットエンジンの心臓部となるターボポンプの試作製造や金属部品の鋳造で支援を行う。ユーグレナは、ZEROに用いられる炭化水素系燃料として、ユーグレナ(和名:ミドリムシ)由来のバイオ燃料を提供。バスキュールは、ISTの情報を外部発信するためのコンテンツ制作などで支援する。
そしてJAXAは、共創型研究開発プログラム「宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」の枠組みのもとで、低コストの液体燃料ロケットエンジンの共同開発に取り組む。ISTから、JAXAのロケットエンジン研究開発拠点である角田宇宙センターに技術者を派遣するとともに、同センターでターボポンプをなど主要部品の開発や試験を行い、JAXAの持つ知見をISTにフィードバックしていく。
稲川氏は、ZEROの開発を単独で行わないことを決めた理由として、MOMO2号機の打ち上げ実験失敗が契機になったことを挙げた。「当時は10〜15人の少数精鋭で開発を行っており、現在は20人程度まで増えているが、あの失敗でロケット開発の大変さが良く分かったので開発体制を変えることにした。クラウドファンディングやスポンサーなどで支援していただいている皆さまの期待に応えられるようにしていきたい」(同氏)としている。
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