小型衛星などにも搭載可能、消費電力60mWの小型原子時計を開発:組み込み開発ニュース
リコーは、東京工業大学、産業技術総合研究所と共同で、60mWの低消費電力な小型原子時計を開発した。内寸33×38×9mmとコンパクトで、自動車やスマートフォン、小型衛星などへ搭載できる。
リコーは2019年2月19日、東京工業大学、産業技術総合研究所と共同で、60mWの低消費電力な小型原子時計(ULPAC:Ultra-Low-Power Atomic Clock)を開発したと発表した。15cm3とコンパクトで、自動車やスマートフォン、小型衛星などへ搭載できるため、自動運転、高精度な測位、新たな衛星ネットワークの実用化につながることが期待される。
研究グループは、原子時計の共振器を小型化するため、原子と電磁波の共鳴現象の1種であるコヒーレントポピュレーショントラッピング(CPT)を活用。マイクロ波で変調したレーザー光を原子に照射するだけで、正確なマイクロ波周波数の検出が可能になるため、内寸33×38×9mmという従来比で1桁以上小さい原子時計を作製できた。
また、原子時計の構成部品の1つである周波数シンセサイザーをCMOS集積回路で構成し、消費電力を従来の25分の1以下の2mWに抑えることに成功。加えて、原子時計の心臓部に当たる量子部パッケージの構造を改良し、温度制御の効率を向上させることで、ヒーターの消費電力を9mWまで削減した。
実験では、105秒(約1日)の平均化時間で2.2×10-12の長期周波数安定度を確認した。これは、大型の原子時計と同等の安定度で、一般的な水晶発振器を搭載した時計の約10万倍もの正確さとなる。
原子時計は、原子と電磁波の共鳴現象と水晶発振器の周波数をリンクさせており、一般的な時計よりも高精度の時計装置となる。現在、マイクロ波を照射する共振器を持つ原子時計が一般的だが、共振器の大きさでサイズが決まるため、小型化は困難だった。さらに、原子時計の構成要素である周波数シンセサイザーやレーザー駆動のためのドライバ回路などは高い精度が必要とされ、消費電力を抑えられないといった課題があった。
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