EV向けワイヤレス給電、実用化の最終段階へ!:和田憲一郎の電動化新時代!(32)(3/3 ページ)
先般、EV(電気自動車)用充電インフラに関して重要な出来事があった。ワイヤレス給電はこれまで米国のベンチャー企業であるWiTricityと、半導体大手のQualcommが激しい国際標準化争いを続けてきた。しかし、WiTricityがQualcommのEV向けワイヤレス給電事業「Qualcomm Halo」を買収することとなったのである。これにより、標準化争いは終止符が打たれるものの、すぐに実用化に移れるのだろうか。
3:価格低減
EVは現在かなり安くなったとはいえ、電池や他のパワートレイン部品が高価であることからガソリン車に比べて価格が高い。ワイヤレス給電装置は、当初は車両とグラウンド側機器がセット販売となるだろう。またグラウンド側は設置工事も必要となる。このため、初期段階で販売台数があまり期待できない場合、高価格となることが予想される。最初は補助金などの支援が望まれるのではないだろうか。
中国雄安新区から普及か
ではワイヤレス給電はどこから普及するのだろうか。最も可能性が高いのは新エネ車の販売が急伸している中国ではないだろうか。2018年における中国自動車販売台数は2808万台と、前年比2.8%減となったのに対し、新エネ車(※3)販売は逆に前年比62%増の126万台まで達している。
(※3)新エネ車=新エネルギー車、EVとプラグインハイブリッド車、燃料電池車が該当する。
また中国は2015年に国家能源局が「電気自動車の充電インフラの発展に関するガイドライン」を公表するとともに、第13次5カ年計画(2016年〜2020年)で普通充電および急速充電の各地域の目標を設定した。次に予定される第14次5カ年計画(2021年〜2025年)では、ワイヤレス給電の目標数値も盛り込まれるのではと推察する。
さらに注目すべきは中国の新都心である雄安新区だ。雄安新区は北京の南西105kmの距離にあり、北京首都機能の分散とイノベーションによる発展モデル都市となることを掲げている。このため、域内は全て自動運転車のみを走行予定しており、自動運転車(乗用車やバス)と相性の良いワイヤレス給電を組み合わせた最先端の技術が、世界の実験場として提供されると推測する。バスの場合、グラウンド側のレゾネータ送電機器は、必ずしも地面でなく、街灯のように上からバス上部に設置されたレゾネータ受電装置に送電する方法もあるだろう。
それでは日本はどうだろう。日本ではまだEVの販売台数が少ないことから、日系自動車メーカーも中国市場を向いて開発を進めるように思われる。日本市場では、最初は家庭用からスタートするのではないか。というのは、住宅メーカーは太陽光発電、家庭用蓄電池、V2Hパワーコンディショナーなど、どんどんエネルギー充放電機器の設置を進めており、住宅メーカーからの勧めや、自動車メーカーからの案内で少しずつ設置が進んでいくと思われる。ただし、日本の部品メーカーにとっては、販売ボリュームが少ないことから、2030年ごろまで我慢の年が続くのではないか。もしくは成長望める中国市場への進出も考えられる。
また、それ以外にも期待される分野がある。1つは双方向給電である。グラウンド側から車体側に送電できるということは逆も可である。機器を開発することで、V2Xとしての双方向給電機器として活用可能となる。ただし、一気にこれに行くのではなく、まずはグラウンド側から車体側にワイヤレス給電する単一機能が進むと思われる。
さらに、日本の大学始め多くの関係者が関心を寄せているのが走行中ワイヤレス給電である。これは路面より給電しながら走行するシステムであり、既に英国や韓国では実際の道路を用いて実証試験を始めている。このように、ワイヤレス給電はようやく実用化に向けて動き出そうとしており、今後も新しい技術が開発され、期待される分野である。
WiTricity訪問時に、エジソンではなく、電磁気学を確立したイギリスの理論物理学者ジェームズ・クラーク・マクスウェルの肖像画が飾ってあったことを思い出す。まさか逝去140年後にこのような形で社会に貢献することになろうとは、ご本人も驚いているのではないだろうか。
筆者紹介
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ワイヤレス充電で世界最先端を走るWiTricity、その実像に迫る
三菱自動車の電気自動車「i-MiEV」の開発プロジェクト責任者を務めた和田憲一郎氏が、自動車の電動化について語る新連載。第1回は、電気自動車の普及の鍵を握るワイヤレス充電技術で世界最先端を走るWiTricityの実像に迫る。 - クアルコムとIHIが見据えるEV向けワイヤレス充電の未来
第1回のWiTricityに引き続き、電気自動車(EV)向けワイヤレス充電の有力企業であるクアルコム、IHIに取材を行った。果たして彼らはライバルなのか、協業できる関係なのか。次に打つ手は何なのか。その核心に迫った。 - インホイールモーターの走行中ワイヤレス給電に成功、車載電池からも電力を供給
日本精工(NSK)は、東京大学や東洋電機製造と共同で、送電コイルを設置した道路からインホイールモーターに無線で給電して走行することに成功した。この取り組みが成功するのは「世界初」(NSK、東京大学、東洋電機製造)としている。 - フォーミュラEでワイヤレス給電目指すクアルコム、“小さな実験”の意味は?
電気自動車のフォーミュラカーレース「フォーミュラE」の2014〜2015年シーズンが幕を閉じた。フォーミュラEの技術パートナーであるクアルコムは、次シーズンでレースカーへのワイヤレス給電導入を目指しているが容易ではなさそうだ。しかしその意気込みを示すために“小さな実験”を行っている。 - ニチコンがEV向けワイヤレス充電システム開発に注力、2021年にも市場投入へ
クアルコム ジャパンとニチコンは、「オートモーティブワールド2018」の会場内で会見を開き、クアルコムの「Halo」を用いたEV向けワイヤレス充電システムの開発状況について説明。「顧客の需要次第ではあるものの、当社の意気込みとして2021年ごろには市場に出したい」(ニチコン)という。 - クアルコムがシートサプライヤ大手と契約、電気自動車のワイヤレス給電を製品化
Qualcommと、シートや電装システムを手掛けるLearは、電気自動車やプラグインハイブリッド車に向けたワイヤレス給電に関するライセンス契約を締結した。リアはクアルコムのワイヤレス給電技術「Qualcomm Halo」を使用して、自動車メーカーやワイヤレス給電のインフラを手掛ける企業と取引する。 - ダイヘンが大型自動搬送ロボットにAIを搭載、ワイヤレス給電技術もアピール
ダイヘンは、「2017 国際ロボット展(iREX2017)」において、工場内の物流に用いる大型の「AI搬送ロボット」を披露した。