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AIによる都市交通管理システムの将来像を考える和田憲一郎の電動化新時代!(33)(1/3 ページ)

2018年秋に中国杭州市における人工知能(AI)を活用した都市交通管理システム「シティーブレイン」が話題となった。2019年3月に杭州市を訪問し、これを開発運用しているアリクラウドの担当者から直接確認する機会を得た。そこで筆者が感じたのは、このAIによる都市交通管理システムは、まさに始まりにすぎないのではということであった。今回はAIを活用した都市交通管理システムはどこまで進展していくのか、将来像も含めて筆者の考えを述べてみたい。

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 中国杭州市をご存じの方も多いのではないだろうか。上海南西に位置し、世界遺産の西湖を有する風光明媚(めいび)な古都である。遣隋使、遣唐使の時代から日本との交流が深く、多くの高僧を通じて文化がもたらされた。また近年はアリババの本拠地としても有名である。その影響もあるのか、最近はスタートアップやベンチャー企業が興隆しており、IT都市として急激な発展を遂げている。

 一方、人口が約920万人と増大しているためか、交通渋滞がひどいことで有名である。筆者も以前に何度か訪れた際、クルマが遅々として進まないことで閉口した経験がある。アリクラウド担当者によれば、AIによる都市交通管理システム導入前は、中国の中でも渋滞ワースト3に入るという状況だったとのこと。

 そこで、杭州市とアリババが連携し、2016年にAIを活用したスマートシティー構想を発表した。2017年10月には、AIを用いた都市交通管理システム「シティーブレイン Version1.0」を杭州市に導入した。2018年10月にはVersion2.0を導入し改良を図っている。その結果、杭州市の渋滞レベルは1年間でワースト3位から87位まで大きく改善したとのこと。筆者が3月に杭州市を訪問した際も、交通量は多いものの、ひどい渋滞は感じられなかった。コントロールしているように見えないところが良いのだろうか。

シティーブレインの機能とは

 アリババ傘下のクラウドサービス事業者であるアリクラウドの担当者によれば、シティーブレインは、大きく分けて3つの機能がある。1つは、交通渋滞コントロールシステムである。最も活用されている機能であり、各交差点にカメラやセンサーを設置し、道路の運行状況を見ながら、信号の点灯時間を変え渋滞を解消している。例えば、東西の道路が渋滞し、南北の道路はそれほどでもない場合、東西の青の点灯時間を長くし、走行をスムーズにさせて渋滞を解消する。自動もしくは手動もあるようであるが、AIの学習効果もあいまって今ではかなり自動化されているようだ。

 2つ目は、緊急事態への対応である。交通事故などが発生した場合、救急車は迅速にその場所に到着するとともに、指令センターから適切な病院やルートの指示を受ける。その後は、病院まで全ての信号が自動的に青に変わり、到着時間を大幅に削減したとのこと。緊急車両が登録されており、何かあった時は最優先で動けるシステムとしている。

 3つ目は、最もAIを活用したアイテムであり、「プロアクティブ・インシデント・マネジメント」と呼ばれる手法である。画面上で、車両が2台路肩に止まっていたり、人が外に出ていたりすれば、平常ではない、つまり異常事態であるとAIが判断する。その後、たとえ現場から電話などの情報がなくても、巡回中の警察官に連絡が行き、すぐに駆け付ける方法である。交通事故の場合、負傷の程度がひどければ、当事者はすぐに連絡をすることができない。このように画面で異常状態を認識することで、何かが起きていると判断し、より早い初動を行うシステムにしているとのこと。


図表1:杭州市のアリババ本社(クリックして拡大) 出典:日本電動化研究所

 それ以外に、公共交通機関に関してもコントロールしているようだ。例で示されたのが、渋滞がひどい場合に、公共バスを定刻に走らせて渋滞をより深刻化させるより、若干出発を遅らせたほうがスムーズに走れると判断した時は、それを連絡して出発を遅らせることがあるとのこと。つまり、定刻発車より、全体の流れを優先して交通機関をコントロールしている。日本ではどこまでバスが来ているか、バス停に表示機能を有しているところがある。しかし、これはあくまでバス単体の状況であり、道路の交通状況全般を見ての判断ではない。統計的数値は教えていただけなかったが、トータルで見ると、AI活用の方が、渋滞で動かないよりストレスフリーで、かつ運行に関しても効果的なのかもしれない。

 さらに、もう1つ驚かされたことがある。これまで交通事故の報告は、現場に駆け付けた警察が、状況を確認しながら書類を作成していた。日本でも事故の現場検証をしているから同じだろう。しかし、シティーブレイン導入後は、画面上のデータに当時の状況を書き込めば良く、かつ事故状況も全て録画されているため、大幅に警察の事務効率が向上したとのこと。

 なお、杭州市での経験を元に、中国では約20都市に導入が予定されており、海外ではマレーシアの首都クアラルンプールに導入予定とのこと。


図表2:プロアクティブ インシデント マネジメントの例(クリックして拡大) 出典:日本電動化研究所

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