数カ月の診断を2週間で、光トポグラフィーでADHDと自閉症の併発を見極め:医療機器ニュース
日立製作所らは、注意欠如・多動症患者が自閉スペクトラム症を併発しているかどうかを早期診断する基礎技術を開発した。数カ月要していたASD併発の診断が2時間程度実施でき、治療や療育方針の早期決定が可能になるため、患者らの負担を軽減する。
日立製作所は2019年2月8日、注意欠如・多動症(ADHD)患者が自閉スペクトラム症(ASD)を併発しているかどうかを早期診断するための基礎技術を開発したと発表した。同社と自治医科大学、国際医療福祉大学、中央大学との共同研究による成果だ。
自治医科大学を中心としたこれまでの研究により、服薬経験がないADHD患者の治療薬服用前後の脳活動パターンを用いて、ASD併発の有無による病態の違いを可視化できることが明らかになっている。
これを基に今回、ADHD患者が初めて治療薬を服薬した時の脳反応を光トポグラフィーで計測し、ASDを併発しているかを自動的に解析するアルゴリズムを開発した。
開発プロセスでは、まず、治療薬を服薬したことのないADHD患者32人(ASD併発患者11人、非併発患者21人)が塩酸メチルフェニデート徐放剤を服用した。その1時間半後、特定の絵が出た時だけボタンを押すという簡単な課題に取り組み、脳反応の光トポグラフィー信号を10分程度計測した。
ここで計測した信号と数カ月後の診断結果を機械学習で分析した結果、ASD併発の有無を見分けるには、大脳皮質上の注意関連領域(中前頭回―角回)と運動関連領域(中心前回)の活動量を用いることが最適だと分かった。
この2つの領域の活動量をグラフ化し、それぞれについて、判別基準の最適値を求めるためのROC曲線を用いて、適切な閾値を設けた。これにより、ASDの併発、非併発を正確に分類できた。
次に、最適な脳活動部位の信号を用いたアルゴリズムと、既に発表されているノイズ除去アルゴリズムを統合し、自動解析アルゴリズムへの実装に成功した。
技術の効果を確認するため、クロスバリデーションの手法を用いて、数カ月後の診断結果に対する予測正確度を検証した。その結果、正確度は約82%で、診断支援技術として実用レベルであることが分かった。
同技術により、これまで数カ月かかっていたASD併発の診断が、2時間程度でできる可能性がある。また、客観的な指標を診断に加えることで、治療や療育方針を早期に決定できるようになるため、患者や家族の負担を軽減することが期待される。
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