品質不正の背景はQCDのバランス崩れ、直接の要因は自己否定できない企業文化:製造マネジメントニュース
PwCあらた有限監査法人は「テクノロジーの活用によるグローバルガバナンスの強化」をテーマにメディアセミナーを開催。不適切な経営や不正検査の問題など、製造業のガバナンスや信頼性に疑問が示されている中、RPAやAI、グローバルリスクコンプライアンス(GRC)ツールなどを活用し、テクノロジーでガバナンス強化を推進する重要性を訴えた。
PwCあらた有限監査法人は2019年2月15日、「テクノロジーの活用によるグローバルガバナンスの強化」をテーマにメディアセミナーを開催。不適切な経営や不正検査の問題など、製造業のガバナンスや信頼性に疑問が示されている中、RPA(Robotic Process Automation)やAI(人工知能)、プロセスマイニング、GRC(ガバナンスリスク・コンプライアンス)ツールなどを活用し、テクノロジーでガバナンス強化を推進する重要性を訴えた。
グローバル化、デジタル化でリスクが顕在化
グローバルガバナンスにおけるリスクの拡大について、PwCあらた有限監査法人 パートナーの辻田弘志氏は「従来のガバナンスは人の問題だったが、地理的にグローバル化が進み、文化的にも地理的にも全てを人手で行うのは難しい状況が生まれている。さらにガバナンス問題に対するリスクが従来以上に高まっており、対策を行わない場合の被害が大きくなることが見えてきている。これらの状況から先進テクノロジーやデータ分析などを活用して対策していく重要性が高まっている」と現在の状況について説明する。
また、製造業において品質不正問題が頻発している状況については、直接的な要因として「カルチャーの問題」(辻田氏)を挙げる。
「その前提としてあるのが、QCD(品質、コスト、納期)における力関係のバランスが崩れた状況がある。これらを求める顧客、営業部門、製造部門のバランスとも言い換えられる。顧客や営業部門の声が強くなりすぎ、コストや納期への圧力が強くなりすぎたときに、情報の非対称性があり最も見えにくい品質が犠牲になりがちになる」と辻田氏は要因を述べる。
さらに「これらの問題が難しいのは、1度行うと繰り返さざるを得なくなるという点だ。ここに企業文化の問題が深く関係してくる」と辻田氏は指摘する。
「現在明らかになっている品質不正問題の多くが過去数十年という長い期間にわたって行われてきたものである※)。日本企業の先輩後輩文化は不正という形になっても断ち切るのが難しい。さらにあまりにも長い期間定着していると悪いと思わなくなる。業界の慣習などにもなってしまい、逆にそれを正当化するような動きに進む。どこかで自己否定が必要なのに、それができない体質が物事を悪化させている。自己否定できるカルチャーが育成できているのかどうかが重要だ」と辻田氏は品質不正の負のサイクルについて語る。
※)関連記事:2019年も検査不正は続くのか――モノづくりのプライドを調査報告書から学べ
自己否定を行うのに必要なのが、テクノロジーの活用とデータによる確認である。「データはうそをつかない。整合性が取れないところで問題を発見することができる。シナリオや数値の矛盾を見ていくのがポイント。データ分析ツールなどで矛盾や不規則な数値が出ている点、外れ値などを繰り返し、徹底的に見ていくことが重要だ。実際に監査でもそういうことをやっている」(辻田氏)と、データ分析の重要性について訴えた。
RPAやAI、GRCツールの活用
その具体的なツールとして、RPAやプロセスマイニング、AI(人工知能)関連技術、GRCツールなどの活用を訴えた。
プロセスマイニングは、通常の業務プロセスを可視化するツールである。実際の業務の中では通常のプロセス以外の処理も多くなる。プロセスマイニングにより大量のイベントログを解析し、可視化することで異常のプロセスを見つけるというものだ。
GRCツールはリスクやコンプライアンスに関する情報を統合して横断的にガバナンス強化を図るというツールである。
辻田氏は「これらのツールを活用することでガバナンスのリスクを常に把握できるようになる。GRCツールは費用対効果の面で日本ではあまり導入されてこなかったが、リスクが顕在化する中で、ようやく導入の動きも広がり始めている」とツールについて述べている。
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