量子コンピュータって実際のところ何? NECもアニーリングに注力:製造ITニュース(2/2 ページ)
NECは2019年1月16日、報道陣を対象として量子コンピュータに関する勉強会を開催し、同社が注力する超伝導パラメトロン素子を活用した量子アニーリングマシンの特徴と優位性を訴求した。同社は同マシンについて2023年の実用化を目指す方針だ。
1950年代生まれの技術を活用、NECの量子アニーリングマシン
一方で、量子コンピュータを語る場合に注目されやすい指標として量子ビット数が挙げられるが、中村氏は「クルマでいうと排気量が多いというだけ。その他にも燃費やコーナリング性能などさまざまな指標があるように、量子コンピュータでも他に注目すべきパラメータがある」と指摘。量子の重ね合わせを維持する「コヒーレンス時間」は、得られる解の品質を左右するとともに量子ビットの実装しやすさにもつながる。その他、結合度や解像度といった指標もあり、それぞれ問題の規模や種類に影響するという。
NECはこれまで20年間ほど量子コンピュータの研究に取り組んできた。「元々ゲート型の開発をやってきた。ゲート型で培った技術を生かして、実用化の近いアニーリング型で良いものが開発できる」(中村氏)と自信を見せる同社だが、独自に開発した超伝導パラメトロン素子を用いた量子アニーリングマシンの実現に注力している。
パラメトロンは1954年に東京大学で発明された論理素子。フェライトコアが持つパラメトリック励振の分周作用によって2つの発信状態を作り出し、ビットとして用いる。しかし、発明直後にトランジスタが急速に進化したこともあり、パラメトロン自体が論理素子で活躍した期間はごくわずかだった。
超伝導パラメトロン素子はこのパラメトロンを超伝導回路で実装したものとなる。同社方式ではビットと結合部分に外部から大きなマイクロ波を供給できるため、ノイズ耐性に優れ、コヒーレンス時間を長く維持できることがメリット。また、高速かつ高精度な読み出しを実証済みで、複雑な問題を解くための全結合の実装も容易とする。
中村氏は、シミュレーテッドアニーリング(焼きなまし法)を用いて組合せ最適化問題を解く場合、量子アニーリングマシンと古典コンピュータの演算能力には大きな開きがあると主張する。2000ビットの組合せ最適化問題を全検索で求解する場合、1060回の試行が必要となるが、1GHzで動作する計算機の場合には3000年の計算時間が必要になる。
一方で、コヒーレンス時間が十分に長い量子アニーリングマシンでは50秒で全検索が可能になる。シミュレーテッドアニーリングは全試行を必要としない手法であるが、「試行の回数を多くすることが組合せ最適化問題の求解では重要」(中村氏)と同社の見解を示した。
NECは超伝導パラメトロン素子を用いた量子アニーリングマシンのコヒーレンス時間を1ミリ秒程度まで延長させる方針で、2023年までに実用化する目標を立てる。また、ゲート型に関しても「現時点では会社独自で開発を行う段階ではなく、オープンイノベーションで進めていく」(中村氏)と研究活動を継続する姿勢を強調した。
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