GMやトヨタはイスラエルで何をしている? イノベーションへの期待:ジャパン・イスラエル・イノベーションサミット2018(3/3 ページ)
2018年11月27日、東京都内で「ジャパン・イスラエル・イノベーションサミット2018」が開催された。この催しは、急激に変化するモビリティ分野で注目されるイスラエルのテクノロジー企業を核に、未来のモビリティ社会を占う最新情報と方向性を考えるものだ。
「自前主義」を捨てて協業を
3社の担当者によるプレゼンの後は、この3人に日産自動車取締役兼INCJ代表取締役会長の志賀俊之氏とPitango Venture Capital マネージングディレクター兼共同創設者のヘミ・ペレス氏を加えた5人によるパネルディスカッションが行われた。テーマは「スマートモビリティの多国籍企業によるオープン・イノベーション」。モデレーターは日本経済新聞社編集委員の関口和一氏が務めた。
ソフトウェアが従来の自動車業界を破壊する
自動車に多くのハイテク技術が導入され“走るコンピュータ”化している現在、そこに搭載されるソフトウェアの重要性が注目されている。また、自動運転やシェアリングなどでも、優れたソフトウェアの存在なしにサービスの提供は不可能となる。イスラエルが世界各国のモビリティ企業から熱い注目を集めている理由には、同国が防衛・軍事産業で培った高度なソフトウェア技術を持ち、ソフトウェアに関してイノベーションを起こす企業が多いという背景がある。
パネルディスカッションでは、モビリティ分野における日本の将来、イスラエルとの協業の仕組み、自動車産業の今後などについてパネリスト個々の立場から意見が出された。今回のパネルディスカッションで各パネリストに共通しているのは、現在の自動車業界が大きな変革期にあるという認識だ。特に、通信とAIの発達、電動化とそれらの融合、いわゆるCASEは、自動車業界における従来型のビジネススタイルを“破壊”するインパクトを持つ。
ディスカッション中には、複数のパネリストからマーケットの破壊に対応した施策の例が紹介された。トヨタAIベンチャーズのアドラー氏からは、画期的なテクノロジーを持つアーリーステージのスタートアップ企業へ投資することで、最新の技術を自動車メーカーに取り込もうとする動きが紹介された。また、Viaのショーバル氏は、シェアリングという新しいモビリティ環境の出現と、それによる影響を示した。
この他、GMのゴラン氏は、自動運転とシェアリングが結び付くことで安全で環境負荷のない社会が実現でき、今後はこの分野で積極的なイノベーションとブレークスルーが起こると予測されると語った。また、AIが自動車産業において大きな意味を持つとし、GMではAIの専門部隊を編成してジャンプスタートのために大きな投資をAIに振り分けていることも紹介した。
“反逆者”が未来のモビリティ社会を作る
現在の自動車業界に劇的な変化をもたらしているのは、IT業界からやってきた人たちだといえる。今回のパネルディスカッションでは、自動車業界の外からやってきた人たちをインサージェント(反逆者)とし、インカンバント(現職者)である伝統的な自動車関連企業がどのような対応をすべきかにも話題が及んだ。
Viaのショーバル氏は「反逆者はソフトウェアに強い」と述べ、自動車業界がソフトウェアネイティブのカルチャーを学んで、これまで培ってきた繊細なハードウェアの製造技術と結び付けていく必要性を説いた。また、日産自動車の志賀氏からは、インカンバント側である日産が早い時期からソフトウェアネイティブの方向に舵を切れた理由として、同社がかつて提唱したEVによる「ゼロエミッションリーダーシップ」というビジョンにあることが説明された。また、交通事故による死亡者、重傷者ゼロに向けた日産のミッションは、イスラエルのITスタートアップであるモービルアイの技術によって進められている。
このように、現在はイスラエルのスタートアップのテクノロジーがモビリティ分野で多数利用されている。イスラエルのスタートアップに詳しいPitango Venture Capitalのヘミ・ペレス氏は、この理由を「イスラエルの企業は産業を新鮮な視点で見ることができる」とし、イノベーションに対する新しい考え方がイスラエルのあらゆる場所にあると強調した。
パネルディスカッションの終盤、モデレーターの関口氏から、中国や韓国に比べて日本企業はイスラエル企業との協業があまり進んでいないという問題が提起された。この理由として、日産の志賀氏は、日本企業の意思決定の遅さと自前主義をあげた。志賀氏は日本企業における状況を「自前主義を突破するのが大変だが、自前主義を脱して、本当にオープンに見ていく純粋な目が必要」と語った。
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