革新機構の取締役9人が辞任へ、今後の投資活動も先行き見通せず:製造マネジメントニュース(2/2 ページ)
産業革新投資機構(JIC)は2018年12月10日、同社社長 CEO(最高経営責任者)の田中正明氏を始めとした取締役9人が辞任することを発表した。辞任時期は「残務整理がつき次第」(JIC)とし直近の投資活動への影響は避ける方針だが、2019年4月以降の新規投資活動は停止する見込み。中長期的な投資方針への影響は必至とみられる。
次第に募っていった政府への不信感
また、同社副社長の金子恭規氏が人材獲得などに尽力し、米国西海岸でバイオ創薬系ファンド案件が発足しようとしていた矢先に、経済産業省と財務省の調整不足から「財務省から『役員報酬に関する協議が終了しない限り、西海岸ファンドの協議には応じない』と宣告される」など、政府への不信感が募る出来事が多くあったとする。
そのような状況で、「リスクマネー研究会報告書が政府全体の方針にはなっていなかったことが次第に見えてきた。われわれが共感した目的が達成できるのかと、経産省に対する不信感が強くなった」(田中氏)。
田中氏は、JICについて「民のベストプラクティスを活用する官民ファンドではなく100%近い株式を保有する株主として国の意向を反映する官ファンドへと変化を遂げた」との見方を示す。
さらに、「次第に増幅されていた経産省に対する不信感が、一度正式に提示した報酬の一方的な破棄という重大な信頼毀損行為によって回復不可能になった」(田中氏)ことも含めて、民間出身の取締役全員が辞任を申し出る理由となったと説明した。
取締役会設置会社は会社法の定めにより取締役を3人以上置く必要があるが、JICは民間出身の取締役全員が同時に辞任し、その後任が1人も決定しなかった場合は取締役が2人となる問題が発生する。この問題について、「今後協議を進めていく予定だが、現時点ではまだできていない」(JIC担当者)とする。
また、現在実行中の投資案件への影響については、「JICで投資を担当するフロント部門は70人で、全員がINCJに出向している。われわれの辞任で直ちに影響が発生することはないと考えている」(田中氏)とする一方で、今後のJICの体制について田中氏は「コメントを差し控える。今後の運営方針も大きく変更すると考えられるため」と語っており、後任人事も簡単には決定しないことが予想される。
旧産業革新機構から日本のイノベーション創出を支えてきたJIC。その立て直しに政府は難しい舵(かじ)取りを迫られている。
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