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若者に支持される町工場の作り方、事業承継の苦労と工夫JIMTOF2018(2/2 ページ)

「第29回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2018)」(2018年11月1〜6日、東京ビッグサイト)の特別講演として、ダイヤ精機 代表取締役の諏訪貴子氏が登壇した。「町工場の娘〜ダイヤ精機代表取締役諏訪貴子氏に学ぶ2代目の事業継承〜」をテーマに、急な事業引き継ぎにもかかわらず、従業員の力を集結し危機を乗り越えた「経営改革」、若手採用に当たって自社の強みを効果的に伝える重要性や、キメ細やかな育成方針で退職を防止する「人財育成」などについて紹介した。

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3年間の社内改革

 就任後、最初に行ったのが社員のリストラだったという。それは、経営も知らない女性が社長となったことによる業界からの厳しい風評への対応策でもあった。金融機関からは合併なども提案されたが、それに対して「半年で結果を出す」と押し切り、3年計画での改革を推し進めた。

 その際には経営方針として、創業の理念を引き継ぐとともに「ダイヤ精機は超精密加工を得意とする多能工集団である」という方針をあらためて明確化した。

 社内改革としては1年目に意識改革、2年目がチャレンジ、3年目に維持継続発展とそれぞれ単年での目標を定めた。改革期間を3年としたのは「経営者交代というのは、企業にとって危機的状況化にある。これを改革という名前で企業が生まれ変わったということを意識付けするには、スピード感が必要だった」と諏訪氏は考えを述べる。

 具体的には1年目に、OJT(On-the-Job Training)を軸とした人材育成により、個々のレベルアップと社員のモチベーションの向上(社員の意識改革)、トップダウン業務組織からボトムアップ化による意見を集める意見集約組織の構築(組織構造の再構築)に取り組んだ。

 2年目には設備投資による社内活性化策として、老朽化した生産設備に対して会社の強みを最大限に生かせる設備投資を行った。生産性の維持と技術継承を同時進行する教育モデルの確立に取り組み、生産管理システムの全面変更などへの取り組みを行った。

 3年目は2年間の改革維持に向け、各業務の棚卸とムダを排除した業務の標準化に着手。改革スキルの向上を目的に社内QC活動や発表会の定例化、職人と若手社員とのパートナー業務を随時取入れた技能継承のためのマンツーマンでの教育などを推進した。これらの改革の基本となった考えの元となったのが、物事には「原理、原則」があり、その上に「基本」が成り立つ、基本があるからこそ「応用」ができるという「5現主義」だという。

反発をどう乗り越えたか

 ただ、改革に取り組み始めた当時は社員から反発があった。しかし、初歩ともいえる現場の整理整頓から始めると、次第に結果が生まれ、社員間にも改革を受け入れる姿勢が見え始めたという。

 さらに、顧客ニーズや従来の問題点を把握し、それらに対応した新システムを導入したところ、進捗管理のレスポンス向上、前注品のコストダウンアイテムの抽出、生産計画の明確化などの導入効果が得られた。

 そして、人材確保に向けた取り組みも推進し、若者の興味を引くことを目指しプロジェクトチームを発足させた。最初に会話のきっかけにもなるような目を引く会社のパンフレットを作成した他、マッチングフェアなどの参加、ハローワーク対策、若手説明員の採用などを行った。

 採用した後の社員の育成としては最初に、若手生活相談係を決めて基本的な指示を行ったり相談を受け付けたりしている。机上教育と並行して、交換日記を行いその人の性格や能力などを判断した。その他、仕事を楽しくするため社員が仕事に自信が持てるような施策、熟練者と若手の言い分のギャップを埋めていくためのチャレンジシートや、年代別のクロスファンクションチームでの意見交換、フットサルや社員旅行でのコミュニケーションの向上などに取り組んでいる。

町工場の強み

 ダイヤ精機の場合、大手製造業が得意な大量生産に対して、多品種少量生産が基本となる。そこでは「町工場の役割を果たすために、顧客のニーズやシーズに対応して、限られた資源の中で行わなければならない。それを可能にするのは人間の知恵である。ある程度の問題はコミュニケーションを図り、知恵を出し合うことで解決する。それが町工場の強みだ」(諏訪氏)という。人材教育にも熱心に取り組み、例えば「若手が入社し2人以上で会話していると、その中に入る。そこには情報や知識がある」(諏訪氏)とコミュニケーションの重要性を訴える。

 また、後世に人材を残すために、2007年から人材確保と育成の取り組みを実施した。プロジェクトチームを立ち上げて採用を強化するとともに、定着率を高めることに取り組んできた。その結果、現在は技術継承に取り組みながら、20〜30代の若手が最も多いという人員構成となっている。しかし、良いことばかりではない。熟練者から若手に移行したことに関連して生産性は落ちているという。現在はこの課題を克服するための取り組みに挑んでいる。

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