バレーパーキングで駐車場はもうかるか、「自分でやる方が早い」は超えられるか:自動運転技術(2/2 ページ)
日本自動車研究所(JARI)は2018年11月13日、東京都内で自動バレーパーキングの機能実証実験を実施した。
市販モデルに大きく手を加えず実現
管制センターとスマートフォン、入出庫する車両は、LTEもしくはWi-Fiで通信する。3台の実験車両はそれぞれ異なる企業が開発した制御ソフトウェアで駐車場内の自動運転を行うが、車両から管制センターに送る位置情報や車両の状態が正常であるかどうかのデータ、管制センターから車両に配信する指示は、統一した形式でやりとりすることとした。実証実験では、見学者のスマートフォンが発する電波が干渉することを想定してLTEを使用。人が立ち入らない駐車場であればWi-Fiでカバーできるとしている。管制センターの運営や車両との通信に必要なセキュリティ対策は今後取り組むテーマとなるという。
実証実験の会場となった駐車場では、実験車両が自車位置や駐車スペースを認識するために地面にマーカーを設置した。屋内ではGPSを受信しにくいため、自動バレーパーキングの駐車場では、柱や白線などにマーカーを設けて車両のセンサーが認識できるようにすることが必要になる。
「車速などで自車位置を推定することもできるが、どうしても誤差があるので場合によってはメートル単位で自車位置がずれる。それを目印で補正しないと、空きスペースが並んでいる場合、管制センターから指示された場所の隣などに誤って駐車して、他の車両の妨げになる可能性がある。それを防ぐ上でも、空きスペースや障害物を検知するシステムとは別に、自車位置を推定するための仕組みが必要だ」(トヨタ自動車の説明員)
実験車両はいずれも市販モデルがベースとなっている。周辺環境を認識するためカメラや超音波ソナーを装着しているが、市販モデルとそん色ない個数、搭載位置となっている。駐車場で自動走行し、切り返しも自動で行うため、ステアリングやブレーキ、アクセル、シフトを制御するソフトウェアを各車両が搭載。制御ソフトウェアはトヨタ自動車、アイシン精機、三菱電機がそれぞれ個別に開発した。トヨタ自動車とアイシン精機は、市販向けに搭載実績のある駐車支援システムをベースにした。三菱電機は市販モデル向けでの駐車支援システムの採用実績がないため、自社で開発を進めている制御ソフトウェアだ。
アイシン精機の担当者は「多くの人が購入する価格帯の市販車両をベースにして、大幅に手を加えなくても自動バレーパーキングに必要な自動走行が実現できている点がポイントだ。高級車のみの機能でもないし、高額なセンサーを使ったわけでもない」と説明。
また、トヨタ自動車の担当者は、管制センターと車両の通信について「データ通信量は、量産モデルで標準搭載を進めているDCMでも対応できる範囲内だ。管制センターと車両は数秒おきに通信して情報を更新する必要がある。緊急停止が必要な場面は、駐車場内の監視カメラやクルマの動き方の情報を基に予測すべきだ。管制指示から車両が緊急停止するまでのタイムラグは特に問題にならないと考えている」と述べた。
「自分がやるよりクルマに任せよう」と思われるレベル
自動バレーパーキングの実現と普及で課題となるのは、技術よりもビジネスモデルであるようだ。駐車場に対し、利用者は「予約して確実に停めたい」「目的地からなるべく近くに停めたい」といったニーズを持ち、事業者は「空いている駐車スペースの有効活用」「入出庫による渋滞の解消」を課題に挙げている。
しかし、自動バレーパーキングは無人駐車に非対応の車両が立ち入らない限定空間を設けて当面は普及させる必要がある。「せっかく自動バレーパーキングのためにスペースを作ったのにガラガラでは駐車場がもうからない。そうなると駐車場の事業者は、一定の台数が普及するまで自動バレーパーキングに対応しないということになってしまう。それを避けるためにも、ビジネスモデルが不可欠だ」(トヨタ自動車の説明員)。
利用者が自動バレーパーキングにメリットを見出すには、「自分で駐車するよりもクルマに自動運転させた方が早くて確実だ」と思わせるだけの車両制御技術も必要になるという。報道向けに実施したデモンストレーションでは、実験車両が駐車し直してもスペースの片側に寄ってしまう場面があった。「駐車スペースに向けて最初に理想的な軌道を引いているが、サイドスリップなど車両の微妙な要因の積み重ねで、“体が思ったほどに動かなかった”というような状態になってしまった。そういった微妙な要因も踏まえて正確に駐車できなければならない」(トヨタ自動車の説明員)。
今後は、「隣の車両のサイドミラーにぶつからないギリギリまで寄せながら迅速に駐車できるくらいに車両制御が進化しなければならない。自分でやった方がいいと思われるようであれば、途中でクルマを降りて自動駐車させることはユーザー心理として難しい」(アイシン精機の担当者)という。コンチネンタル・オートモーティブの担当者も同じ意見で、「プロドライバーよりも迅速で正確な自動駐車を安定的に実行するには、クルマが行う認知、判断、操作の全てを進化させなければならない」と述べていた。
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