カーボンナノチューブを用いて褐色脂肪組織内の異常を細胞レベルで検出:医療機器ニュース
産業技術総合研究所は、単層カーボンナノチューブを近赤外蛍光プローブとして用いることで、絶食させたマウスでは褐色脂肪組織の血管壁透過性が亢進するという現象を発見したと発表した。
産業技術総合研究所(産総研)は2018年10月11日、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を近赤外蛍光(NIRF)プローブとして用いて、褐色脂肪組織内の異常を細胞レベルで検出したと発表した。産総研ナノ材料研究部門 首席研究員の片浦弘道氏らが、国立国際医療研究センター研究所、北海道大学と共同で明らかにした。
生体組織の細胞レベルでの異常を把握する手段として、近赤外蛍光ナノ物質を用いた生体内造影研究が注目を集めている。中でもSWCNTは、退色しにくく、その蛍光は組織の自家発光と波長が異なるため、鮮明なNIRF像が得られる。
産総研では今回、SWCNTを近赤外蛍光プローブとして用いて、細胞レベルでの微視的情報を得る技術の開発に取り組んだ。まず、近赤外対応対物レンズとCNT励起・観察用ダイクロイックミラー、高感度2次元NIR検出器を組み合わせ、空間解像度を数μm程度に上げたNIRF顕微鏡を開発。SWCNTに親水性を持たせ、マクロファージに捕獲されないようにリン脂質ポリエチレングリコール(PLPEG)で表面を被覆したSWCNT(PLPEG-SWCNT)を近赤外蛍光プローブに用いた。
これをマウスに投与し、特に褐色脂肪組織(BAT)をNIRF造影装置を用いて撮影したところ、波長1000nm以上の蛍光を検出。正常マウスでは、PLPEG-SWCNTはBATに蓄積せず、NIRF撮影では明るく造影されなかったが、マウスを20時間絶食させると、PLPEG-SWCNTがBATに蓄積され、明るく造影された。
このメカニズムを明らかにするため、NIRF顕微鏡でPLPEG-SWCNTが蓄積した絶食マウスのBATの組織を観察。波長1100nm以上の蛍光を観察すると、BATの血管からPLPEG-SWCNTが漏れ出て、組織内に拡散していた。絶食によりBATの血管壁透過性が亢進するこの現象は、PLPEG-SWCNTによって初めて捉えられた。
さらに、BATを鍍銀染色して通常の光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察することで、この現象は、BATで細胞や血管を支えて組織を形作っている結合組織であるコラーゲン線維の脆弱化に起因すると推察された。
PLPEG-SWCNTは細胞レベルでの異常を検知するのに優れたプローブといえる。これを用いたマウス全身のNIRF造影とNIRF顕微鏡による細胞レベルでの組織観察は、腫瘍や臓器・組織の異常発見とその機序解明に役立ち、薬剤や治療法の開発にもつながると期待されるとしている。
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