究極の災害救助ロボットと産業ロボットを目指す〜WRS2018インフラ/ものづくり部門:World Robot Summit徹底解剖(3)(2/2 ページ)
東京オリンピック・パラリンピックが行われる2020年、新しいロボットイベント「World Robot Summit(WRS)」が開催される。本連載では、このWRSについて、関係者へのインタビューなどを通し、全体像を明らかにしていく。第3回は4つある競技カテゴリーのうち、「インフラ・災害対応」部門と「ものづくり」部門の2つについて説明する。
究極の産業用ロボットの姿はこうなる?
ものづくり部門は、産業用ロボットによる競技である。プレ大会では「製品組立チャレンジ」が行われ、モデル製品としてベルトドライブユニットの組み立てを行う。
製品組立チャレンジは、3つのタスクで競技が構成される。まず「タスクボード」(Task Board)は、要素技術を競うもの。マットの上に、ベルト、ボルト、ナットなど15個の部品が置かれており、それをタスクボード上の所定の位置に組み付ける。部品の配置は事前に知らされないため、部品を認識する技術も必要となる。
次の「キッティング(Kitting)」は、ベルトドライブユニットを組み立てるための準備作業となる。このタスクでは、部品箱の中から必要な部品を探して取り出し、トレイの上に並べる必要がある。こちらも部品を認識する能力の他、たくさんの部品の中から1つの部品だけをつかみ取る技術も要求される。
そして最後のタスクが、最大の見どころである「組立(Assembly)」だ。キッティングで用意したトレイの中から部品を取り出し、ベルトドライブユニットを組み立てる。クリアランスが小さい部品をはめたり、ベルトのような柔軟物を扱ったり、3部品の同時組み立てを行うなどの技術課題に対応する必要がある。
この組立タスクは2日間にわたって実施。1日目は既知の部品だけで行うが、2日目はサプライズパーツも使用。サプライズパーツが渡されるのは競技の直前のため、現物合わせによる教示は不可能となっている。
競技に使用するロボットは、もちろん参加チーム側で自由に用意してもらって構わないが、主催者側から借りることも可能だ。貸し出し可能な機種は、ファナック、安川電機、川崎重工業、三菱電機の4社6製品。垂直多関節型のロボットが多い中で、川崎重工業からは双腕ロボットの「duAro1」も提供されている。
この競技で目指すのは、究極的には「迅速な一品ものづくり(agile one-off manufacturing)」だという。現在の産業用ロボットは、教示で動き方を指定したり、作業に合わせた治具を用意したりと、準備にかなり時間とコストがかかる。そのため、多品種少量生産では効率が悪く、大量生産品での利用が中心となっている。
しかし、今後深刻化する人手不足に対応するためには、従来苦手としていた多品種少量生産にもロボットを活用していく必要がある。多品種少量生産を追求していった先にあるのが、たとえ一品ものであっても製品の情報を教えればすぐに作ることができるという「迅速な一品ものづくり」なわけだ。
競技で重視するのが、agile(アジャイル、迅速)とlean(リーン、無駄がない)。競技で高得点を得るためには、教示レス、冶具レスで働ける、汎用性の高いロボットが求められる。組立タスクのサプライズパーツなどは、まさにそういった点を狙ったものだといえる。各チームがどのように対応するのか、注目したいところだ。
プレ大会ではサプライズパーツだったが、本大会ではより難易度が高くなると予想される。もしかすると、サプライズパーツのみで作られる“サプライズプロダクト”というのもあり得るかもしれない。かなりチャレンジングだが、そんな風になると面白そうだ。
現在の産業用ロボットは、人間では難しいような正確な動きを何度も繰り返してできる反面、人間なら簡単にできるような作業が難しかったりもする。今回の競技はあえて後者に挑戦するものなので、もしかすると苦戦する様子にガッカリすることになるかもしれないが、それが現実。ぜひ大勢の人に来てもらい、実際のロボットを見て欲しいと思う。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ≫連載「World Robot Summit徹底解剖」
- ロボット活用で未来の家庭やコンビニはどうなる〜WRS2018サービス/ジュニア部門
東京オリンピック・パラリンピックが行われる2020年、新しいロボットイベント「World Robot Summit(WRS)」が開催される。本連載では、このWRSについて、関係者へのインタビューなどを通し、全体像を明らかにしていく。第2回は4つある競技カテゴリーのうち、「サービス」部門と「ジュニア」部門の2つについて説明する。 - ロボット五輪あらためロボットサミットが始まる、2018年プレ大会は賞金1億円超
東京オリンピック・パラリンピックが行われる2020年、新しいロボットイベント「World Robot Summit(WRS)」が開催される。本連載では、このWRSについて、関係者へのインタビューなどを通し、全体像を明らかにしていく。第1回はWRSの概要や狙いについて説明する。 - 競技会と展示会からなるロボットの国際大会「World Robot Summit」を開催
NEDOと経済産業省は、ロボットの国際大会「World Robot Summit(WRS)」を2018年10月に開催する。競技会と展示会からなるWRSは、世界の高度なロボット技術を集結し、競争を通じて技術開発を加速させることを目的とする。 - 人ができないことを支える、それがハピネスなロボット
2020年に開催される日本発のロボットチャレンジ「World Robot Summit」に向け、記念シンポジウムが都内で開催。WRSの実行委員会諮問会議 委員長であるカーネギーメロン大学ワイタカー冠全学教授の金出武雄氏が登壇し、将来に向けた「幸せのためのロボット」の在り方を訴えた。 - ロボットの将来像は「背中を見て仕事を覚える」世界へ
2020年に開催される日本発のロボットチャレンジ「World Robot Summit」に向け、記念シンポジウムが都内で開催された。WRSの実行委員会諮問会議 委員であるカリフォルニア大学サンディエゴ校 コンピュータ理工学部 教授のヘンリック・クリステンセン氏が登壇し「ロボティクスの未来」をテーマに、自律型ロボットの将来像などについて解説した。