物流崩壊から2年、ユニクロが全自動倉庫に取り組む理由(前編):サプライチェーン改革(2/2 ページ)
ユニクロなどを展開するファーストリテイリングとダイフクは2018年10月9日、戦略的グローバルパートナーシップを結んだことを発表した。全自動倉庫を含む物流の抜本的効率化に共同で取り組む。本稿では前後編に分け、ファーストリテイリンググループの物流改革の取り組みと全自動倉庫の全容について紹介する。
なぜユニクロは物流改革に取り組むのか
ファーストリテイリング グループ執行役員 神保拓也氏は2015年の段階でグループの物流の仕組みが限界に達していたと指摘する。「物流領域についてはパートナーに丸投げしている状況で、そもそもグループ内で何が起こっているのか把握できていなかった。倉庫の能力を超えた状況が生まれてモノがあふれる状況が頻発する一方で、納期回答などもできない状況が続いていた」と神保氏は当時の状況を振り返る。
さらに「当時の混乱を物流部だけで解決しようとしており問題の根を深くしていた状況があった。さらにグループ内でも物流の全体像を描けておらず、その場その場でパートナーに無理なお願いを繰り返すことになり、結果的にパートナーからの信頼度も下がり、混乱を広げる要因になっていた」と述べる。
これらを解決するために取り組んだのが「物流改革」である。2016年9月から取り組みを開始。フェーズ1として、まずは物流部を解体。グローバルサプライチェーンマネジメント部を新たに立ち上げ、物流だけでなく企画や生産、販売まで総動員で課題解決に取り組める体制を作った。「物流の問題は物流だけでは解決できない。川上の企画や生産、川下の販売とすり合わせて最適化を図る必要があった」(神保氏)。
さらにフェーズ2として、「現場、現物、現実」として全ての倉庫に経営幹部が訪問し本質的課題の把握に努めた。その中で本質的な課題として、以下の4点があることに気づいたという。
- サプライチェーンに関する重要な数値、モノの流れが見えない
- 販売に連動しない早期、大量入庫
- 物流パートナーに依存した、統一されていないオペレーション
- コスト管理の不徹底
「販売に連動しない入庫については、ヒートテックの例がある。ヒートテックが売れるのは秋口以降となるが、当時は工場で作ったものがプッシュ型で販売側に届けられていた。そのために5月くらいに日本に入庫され、5カ月以上眠らせる状況だった。これが倉庫の収納量を圧迫するだけでなく、無駄な倉庫費用につながっていた。これを賃料の安い生産国側に新たに倉庫を設けることで、コスト面など物流全体で最適なシステム化を実現できるようになった」と神保氏は課題解決の例を紹介する。
そして、フェーズ3として、物流パートナーと信頼関係を再構築し新たな体制構築を進め課題解決を実現した。具体的には以下の4つの点に取り組んだという。
- 全てを可視化するための専門チームを立ち上げた
- 賃料の安価な生産国の倉庫で在庫を留め置き
- 物流パートナーとの契約体系、倉庫オペレーションを統一
- 物流に関する経営管理チームの立ち上げ
神保氏は「信頼関係が低下していた中で改めて物流パートナーとの契約も一から見直し、ビジョンを共有する形で新しいスタートを切った」と述べている。
物流改革への学びから全自動化へ
これらの取り組みを経る中で「実際に現場に入り、人手で改革を進めてきたからこそ得た学びがある」と神保氏は述べる。
「1つは、人海戦術では限界があるという点である。2つ目が物流をコストセンターと考えがちだが、それでは状況はよくならない。プロフィットセンターとして位置付け、物流がより高度化することで得られる価値を企業としての強みとして打ち出せるようにする。物流をプロフィットセンターとすることが重要だと考えた」と神保氏は考えを述べる。
これらの考えから今回のダイフクとの提携による「世界最先端技術を用いた、進化し続ける、超省人アパレル倉庫」に取り組んだという。そのパートナーとしてダイフクを選んだ理由として神保氏は「パートナー選定については5つの条件を定めた」とする。5つの条件は以下の通りである。
- グローバルでの事業展開、幅広い経験と知見
- 世界最先端の技術
- 時代、市場の変化や技術進化への対応力
- 企業文化の親和性
- 経営陣のコミットメント
神保氏は「われわれは、ベンチャー企業なども含めて世界中の企業に会い、パートナー選定を進めたが、最終的に5つの条件を満たすことができたのがダイフクしかなかった」と述べる。こうしていよいよ世界最先端の自動倉庫実現への取り組みが始まった。
前編では、ダイフクとの協業の概要とファーストリテイリンググループの物流改革への取り組みを紹介した。後編では、全自動化に突き進むUNIQLO CITY TOKYOの倉庫での取り組みの内容を紹介する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ユニクロが7カ国146拠点の主要取引工場を公開、生産の透明性確保へ
ユニクロを運営するファーストリテイリンググループは、従来非公開としてきた主要取引先工場を公開し、サプライチェーンの透明性を示す方針を明らかにした。 - 取引工場の労働環境に配慮する時代へ! ユニクロが改善計画を発表
ファーストリテイリングは、ユニクロの製品生産に携わる2つの中国関係工場の労働環境について、改善に向けた行動計画を発表した。香港を拠点とするNGO団体が1月11日に公表した報告書を受けてのもの。 - アパレルで進むマスカスタマイゼーション、島精機製作所が起こす革新
島精機製作所は、「リテールテック2017」のインテルブース内に出展し、「シマトロニックデザインシステム」によるマスカスタマイゼーションの実現について紹介した。 - RFIDはアパレル業界の救いの手となるか?
経済産業省委託事業「IT投資効率性向上のための共通基盤開発プロジェクト」の繊維分野における電子タグ実証実験の概要とデモの模様を紹介する。 - 当たらない需要予測とうまく付き合う法
今日の製造業が抱えている根本問題は「大量・見込み生産の体制を残したまま、多品種少量の受注生産に移行しようとしている」ことにある。生産計画を困難にするさまざまな要因を乗り越え、より良い生産計画を実現する方法を検証してみよう。 - それでも製造業にとって“スマート工場化”が避けては通れない理由
製造業の産業構造を大きく変えるといわれている「第4次産業革命」。本連載では、第4次産業革命で起きていることや、必要となることについて、話題になったトピックなどに応じて解説していきます。第25回となる今回は「そもそもスマート工場化って必要なの?」という点について考察してみたいと思います。 - スマートファクトリーはエッジリッチが鮮明化、カギは「意味あるデータ」
2017年はスマートファクトリー化への取り組みが大きく加速し、実導入レベルでの動きが大きく広がった1年となった。現実的な運用と成果を考えた際にあらためて注目されたのが「エッジリッチ」「エッジヘビー」の重要性である。2018年はAIを含めたエッジ領域の強化がさらに進む見込みだ。