建設現場の見守りはやっぱりヘルメット、村田製作所が熱中症モニタリングを開発:製造業IoT
村田製作所と戸田建設は2018年8月28日、東京都内で記者説明会を開き、建設現場の作業員が熱中症で倒れるのを防ぐ「作業者安全モニタリングシステム」を発表した。
村田製作所と戸田建設は2018年8月28日、東京都内で記者説明会を開き、建設現場の作業員が熱中症で倒れるのを防ぐ「作業者安全モニタリングシステム」を発表した。
既存のヘルメットに装着可能で、脈拍やヘルメット内の温度と湿度、活動量などを計測するセンサーを新規に開発。センサーで測定した生体情報をクラウドに収集して熱中症の可能性を分析し、休養が必要な作業員がいれば事務所や現場監督に知らせる。
開発したシステムは複数の作業員の状態を同時に管理することが可能だ。センサーを駆動するバッテリーはUSBで充電が可能で、1回の充電で2週間〜1カ月の連続稼働を実現した。同システムは2019年春から戸田建設が施工中の現場で導入する予定だ。
ヘルメットは作業員全員が使う。作業員の人数規模は戸田建設本体で4000人で、協力会社も含めると数万人単位になる。同システムの導入計画について、記者説明会では詳細を伏せたが、大規模に導入する可能性があることを示した。さらに今後は、戸田建設以外の建設会社や、建設業界以外にヘルメットを着用する造船や鉄道、工場、電気工事といった業種へも提案していく。
建設現場と熱中症
熱中症は建設業界にとって対応が急務となっている。熱中症によって救急搬送される人数が例年で5万人前後なのに対し、記録的な猛暑の2018年は8万人を上回るペースで推移している。業種別に熱中症患者数をみると建設業界は全体の4分の1を占め、なおかつ死亡者数が全体の半数弱で圧倒的に多いのが現状だ。
猛暑の影響で戸田建設でも熱中症の患者が増えており、2017年は45件だったのが2018年は7月末時点で75件に上る。40〜50代の作業員は、経験から暑さによる自分の体調変化に気付きやすいが、若手や高齢の作業員は体調変化に自分自身でも気付けず倒れるケースが多いという。熱中症対策として、協力会社が空調服を購入する際の支援や、暑さ対策になる食品の支給など実施してきたが、倒れる前に熱中症の可能性を把握することが必要になっていた。
今回、作業員の熱中症の可能性をモニタリングするにあたって、作業の邪魔にならない小型軽量なセンサーであることと、付け忘れのない形にすることを重視した。建設現場の作業員が必ず身に着けるものとしては、ヘルメットや安全靴、安全帯などがあるが、皮膚が露出しており、生体情報を測定しやすいことからヘルメットを選んだ。
戸田建設はこれまでにも、腕時計型や着衣型のウェアラブル端末の開発を進めてきたが、作業員が動き回る建設現場は理想的な測定環境ではなく、作業環境によってはウェアラブル端末を身に着けること自体が難しい場合もある。そのため、作業員全員が身に着けるヘルメットでの生体センシングを企画した。
使い物にならないところからスタート
2016年から開発をスタートし、2017年3月から戸田建設の現場で試作品を用いた実証実験を始めた。しかし、試作品の第1号は協力した作業員から「使い物にならない」と不評だった。センサーを額に接触させて生体情報を測定するため、ヘルメットをかぶった時に痛みがあったり、バッテリーが重くヘルメットが傾いたりする出来栄えだったためだ。また、データを安定して取得することも困難だった。改良を加えた試作品の第2号は、痛みや重さはやや改善したものの、バッテリーの駆動時間が短く、毎日充電しなければならない点が新たに課題となった。また、熱中症の可能性を知らせるアラートが機能しないことも判明した。
こうした課題について、バッテリーの駆動時間は容量を増やしながら筐体を軽量化することで対応した。センサーの装着感は、額に接触させるタイプから、ヘルメット内のバンドに組み込める非接触タイプとすることで改善している。センサーのハードウェアは村田製作所が新規に開発したもので、医療分野で強みを持つElfi-Techのソフトウェアを使用している。センサーとバッテリーの重さは、ヘルメットに装着する一般的なヘッドライトと同等で、第1号の試作品と比較して3〜4割の小型軽量化を達成したとしている。
アラートについては、熱中症の可能性を分析するアルゴリズムを見直した結果、正しく機能するようになった。村田製作所と戸田建設には体調変化を分析するノウハウがなかったため、豊橋技術科学大学の協力を仰いだ。
複数人の作業員から得た生体情報を集めてクラウドに送信するためのゲートウェイも進化した。建設現場は日々環境が変わり、通信環境に影響する部材が増えることもあるが、安定してデータを収集、送信できているという。通信は免許が不要な特定小電力無線局を使用している。
当初は数十%という高い割合で測定ミスが発生していたが、現在は数%以内のレベルまで改善したとしている。
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