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日本は既にディープラーニングで後進国となりつつある――東大松尾教授人工知能(2/2 ページ)

生産設備から社会インフラ、各種災害対策まで「メンテナンス」「レジリエンス」に関する最新の製品や技術、サービスを一堂に集めた展示会「メンテナンス・レジリエンスTOKYO2018」(2018年7月18〜20日、東京ビッグサイト)の特別講演に東京大学大学院 工学系研究科 特任准教授の松尾豊氏が登壇。「AIの発達によりわれわれの生活・産業がどのように変わるのか」をテーマにディープラーニング研究の重要性について紹介した。

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階層を深くする意味

 ディープラーニングを簡単に説明すると「最小2乗法」に近いという。最小2乗法とは測定で得られたデータの組を、1次関数など特定の関数を用いて近似するときに、想定する関数が測定値に対してよい近似となるように、残差の2乗和を最小とするような係数を決定する方法だ。松尾氏は、猫関数の100×100の1万個の値から「猫か(Y=1)」か「猫でないか(Y=0)」を出力する関数を求める問題などを使い「ディープラーニングは最小2乗法のお化けのようなもの」と説明した。

 従来のマシンラーニングは(階層的に)「浅い」関数を使っていたが、ディープラーニングは「深い」関数を使っている。それだけの違いだが、それによって表現力が大きく向上する。それは人間の脳もおそらく同じ原理だとされているからだ。

 なぜ「深い」ことが重要かについては、世界の構造が階層的になってきているためだという。「学習するモデルもフラットに並んだ線形のモデルのようなものよりも、階層を持ったモデルの方が良い」と松尾氏は語る。

 また、ディープラーニングでは、表現力とパラメータのトレードオフが発生するが、階層を増やすことで、指数的に少ない数のニューロンで同等の表現力を持つ関数を作ることができる。つまり「簡単な関数を深く重ねることで、パラメータが少なく、かつ表現力の高い関数を作れることなどの利点がある」と松尾氏は述べている。これらができるようになったのは、計算機のパワーが上がったこと、データの量が増えたことが背景としてある。

 ディープラーニングは、入力を出力に写像するために、簡単な関数の組み合わせで表現力の高い関数を作り、そのパラメータをデータから推定する方法であり、インターネット、トランジスタ、エンジン、電気に匹敵する数十年に一度の技術に位置付けられる。携帯、PC、スマホと同じようにディープラーニングにより技術変化、産業変化が起こることが予想される。

生物における「眼の進化」が機械で起こる

 生物の進化において眼の誕生はその進化に大きく貢献した。これと同じことが機械・ロボットの世界でも発生している。「さまざまな産業の中で現在、認識を必要とするため人がやっている仕事が、かなり自動化されている」(松尾氏)。

 例えば、農業分野ではトマト収穫ロボット、建設業界では自動溶接機械、食品加工では食洗器に皿を入れるロボットなどで活用が期待されている。さらに松尾氏は「冷蔵庫や洗濯機、炊飯器などの家電は認識能力がない。逆を言うとこれから認識力を持った家電群が広がる可能性がある。日本のモノづくりにおける技術力の高さと、認識能力の組み合わせは、ポテンシャルが非常に大きい」と期待感を示した。

 しかし、現状では日本の産業界にディープランニングはあまり浸透していないという。一方、世界中の動きは速く、日本企業が高い実績を残してきた医療機器についても、2015年から競争が始まり、既に決着がつき始めている。さらに、かつては日本企業が先行していた顔認証の技術も「今では中国企業がリードしている」と松尾氏は警鐘を鳴らす。

 このディープランニングの技術研究において現在、引用された論文の上位は3人のカナダのベテラン研究者が占めており、カナディアンマフィアと呼ばれている。しかし、この3人を除くとその他は、ほとんど20代から30代前半の若い研究者だ。これら研究者を狙って人材の争奪戦も起こっており、優れた技術を持つ研究者には高い報酬も支払われている。こうした人材の育成にも日本は出遅れているようだ。

 この人材の問題について松尾氏は「AIの中でもディープラーニングが重要だと理解している人が少ない。大きなチャンスを迎えているのに取り組みが遅い。人への投資が小さい。この3つを何とかしないといけない。逆にこの課題がクリアできれば、(世界と)戦える状況になる」と提言している。

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