日中共同による急速充電新規格は、世界標準となるのか:和田憲一郎の電動化新時代!(29)(3/3 ページ)
EV(電気自動車)用の急速充電仕様について新たな動きが出てきた。日本と中国の共同検討によって急速充電の新規格を策定する動きである。既に市場で固まってしまったように見える急速充電規格であるが、なぜ今になって新たな規格作成なのか。狙いや、具体的な統一方法、さらには実施時期や市場をどう考えるのか。まだ仕様が固まらないと思われる中で、関係者にインタビューを敢行した。
取材を終えて……隔世の感
筆者がCHAdeMOに携わっていた頃とは隔世の感がある。CHAdeMO協議会は2010年3月に、幹事会社5社(トヨタ自動車、日産自動車、三菱自動車工業、当時の富士重工業=現スバル、東京電力)で設立された。当時、急速充電規格は世の中にCHAdeMOしか存在していなかった。その後、欧米勢がCHAdeMO対抗としてコンボ規格(欧州版、北米版)を設定し、また中国はCHAdeMOとは若干異なる中国独自の規格としてGB/Tを設定した。最終的にはこれら4つの規格が、国際電気標準会議(IEC)で国際規格(IS)として承認されている。なお、ISは一定の安全基準を満たしていることを示すものであり、その実用化にあたっては、各国の法規や市場に委ねる形をとる。
当時4つ規格が存在したため、使用する側からみても不便であり、「共用化を進めては」との声はあった。しかし、関係者といろいろ議論を重ねても、相手との差別化が設立趣旨にあるため、共用化への溝を埋めることができなかった。
それから8年。当時の出力レベルは乗用車タイプのEVを対象にしたため50kWにとどまっていたが、時代は超高出力を要するバスやトラックなど大型EVが出現する事態に至って、状況が一変した。今回のインタビューでは、対象出力を350kW〜900kWまでを想定に入れているとのこと。もはや空飛ぶ自動車も視野に入るのであろう。
日中共同による急速充電新規格は重要な意味を含んでいる。新エネ車、EVバス、EVトラックで先頭を走る中国が入っており、彼らは新規格ができれば、国家標準であるGB/Tに組み込むであろう。そうなると、まだ立場を明らかにしていないドイツ自動車メーカーも、ガソリン車で約4割を中国で販売し、かつ新エネ車にも積極的であるだけに、否が応でも追随しなければならなくなる。また、2018年7月11日に中国の上海郊外でEV中国生産をアナウンスしたテスラも、EVトラック「セミ」を発表しており、採用の可能性も出てくる。
新規格については、コネクター開発、互換性確認、価格低減など、多くの開発事項も残っている。しかし、今回の日中共同による新規格は、来るべき超高出力のEVモビリティ実用化を支える重要な要素になると思われる。それが世界標準規格となることが望ましいが、これまでのいきさつから日中だけで決まるものではない。協力するパートナーを増やしながら、世界のEVモビリティに貢献するキーデバイスに育って欲しいと願わずにはいられない。
筆者紹介
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。
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