「品質は工程で作り込む」トヨタが描く品質とIoTの幸せな関係:モノづくり最前線レポート(2/2 ページ)
生産設備から社会インフラ、各種災害対策まで「メンテナンス」「レジリエンス」に関する最新の製品や技術、サービスを一堂に集めた展示会「メンテナンス・レジリエンスTOKYO2018」(2018年7月18〜20日、東京ビッグサイト)の特別講演に日本科学技術連盟理事長でトヨタ自動車技監の佐々木眞一氏が登壇した。
トヨタが描く次世代の製造現場
トヨタでは、次世代の製造現場として、トヨタ生産方式(TPS)をベースに「多種少量生産(究極は一個流し)をしても効率を落とさない」という製造工程の確立を目指している。佐々木氏は「従来は、カンバン方式というツールを用いて行っていた。そのレベルを上げて、多種少量生産(どんなものをどんな数で受注しても効率よく対応できる)という工程を作るということに、IoTの技術は大変役に立つと考えている」と、IoTに対しての期待感を示した。
この期待感を具体的に見ていこう。トヨタは工程間を結ぶ情報のやりとりをカンバン方式で行ってきたが、従来の紙を用いた手法から、現在では電子データを送信する形となっている。これにより工程間の情報のやりとりが入力時間差や入力ミスなどなしに、完璧に同期できるようになる。
さらに、従来はさまざまなデータが見えるようになっていても、特定の不具合の原因を判別するのは難しく、データがあってもすぐに問題が分かるというものではなかった。しかし、ベテランの従業員はわずかな色や音の違いに気づいて、原因を特定することができた。「こうしたベテランのノウハウを、IoTやビッグデータ分析、機械学習技術などの組み合わせによって実現することで、不具合ゼロの工程が実現できるようになる」と佐々木氏は述べる。
トヨタではこれまで「品質は工程で作りこむ」ということに取り組んできた。これにIoTによる加工点の物理的変化のセンシングと、データ分析、AI(人工知能)関連技術や制御技術などによるフィードバックなどを組み合わせていく。
ただ、こうした最新技術は、もともとのモノづくりの実力があってこそのものだ。佐々木氏は「きちんとした工程作りをした上に、さまざまなセンサーから上がってくるデータを分析することで、一個流し、工程間シンクロ、不具合ゼロが実現できるようになる。逆にいい加減な工程にいくら良いセンサーを取り付けても、不良のデータが上がってくるだけで意味がない」と指摘した。
自工程完結と創業期からの考え方
トヨタでは現在「品質を工程で造りこむ」を自工程完結という言葉に置き換えて取り組みを進めている。この自工程完結が生まれた背景は、創業事業である自動織機作りにあるという。
トヨタ(豊田自動織機)創業期の自動織機は、動力がモーターになっただけで、糸切れなどの不具合は、作業員がいちいち機械を止めて対応する状況だった。頻繁に起こるために、自動織機1台に作業員1人が張り付いて監視するという状況で、効率の悪いものだった。
これに対して、豊田自動織機(G型)は、縦糸が1本切れても自動的に止まり、横糸は自動的に供給されるような機能を装備していた。その考え方を自動車生産に展開したのが、カンバン方式や「Just in Time」(必要なモノを必要な時に、必要なだけ作る)という仕組みを採用した「トヨタ生産方式」である。
そして、これを支えていたのが、“にんべんの自動化”ともいわれる「自働化」という言葉である。自動化と自働化の違いについて、佐々木氏は「要するに単に動くのと違い、自ら働くことは価値を見いだすということだ。価値を見いだすということは不良品を作らないということであり、設備や作業に異常があり不良品を作りそうになったら自らラインを止める。こういうことを自発的に行えるようにする。トヨタ生産方式はこれらで成り立っている」と述べた。
トヨタの中興の祖といわれる第5代社長の豊田英二氏は「検査の理念は、検査しないことにあり」といったという。これは検査で保証するものではなく「品質工程で作り込んで、検査をしなくてもいいようにしよう」という意味が込められている。それを一人一人が品質保証の主役となって推進するために「品質は工程で造りこもう」というタイトルのパンフレットを作成。全従業員へ配布し、この考えを提唱したという。
講演では、海外生産の急拡大や技術の高度化(電子制御)、市場要求レベルの高度化に伴い、品質を工程で作り込むトヨタのDNAが崩れていた英国の工場「TMUK」の再建や、堤工場で発生したクルマの水漏れに関わる全工程、全要素作業の洗い出しを実施した事例なども紹介。過去の失敗なども振り返りつつ、トヨタが品質を作り込むために過去の歴史の中で続けてきた努力について説明した。
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