大型SUVや商用車にも必要な自動運転、大型車のパワステ電動化のポイントは:自動運転技術(2/2 ページ)
ジェイテクトは、SUVや商用車などサイズの大きい車両の電動化と自動運転化に取り組んでいる。SUVや商用車は油圧パワーステアリングが主流だが、環境規制に対応するとともに、運転支援技術や自動運転システムを搭載するには電動パワーステアリング(EPS)が欠かせない。しかし、大型車にEPSが採用されてこなかった背景には幾つかの要因もある。EPS搭載車両の拡大に向けた取り組みを、同社のテストコースがある伊賀試験場(三重県伊賀市)で体験した。
ランクルの油圧パワステをEPSに置き換えるには
ラックパラレルEPSは中・大型車に向き、自動運転対応の準備も進めているが、EPSを駆動する電力の確保が課題となる。
例えば、通常は油圧パワーステアリングを使う大型SUVにラックパラレルEPSを搭載した場合、大きな負荷がかかる運転操作では補機バッテリーの電力の多くをEPSに割いてしまう。テストコースでラックパラレルEPSを搭載したトヨタ自動車の「ランドクルーザー」で据え切りしてみると、EPSだけで10〜13.5V、60Aの電力を使った。低速でカーブを曲がるような場面でも同様に大きな電力を必要とする。
そのため、補機バッテリーで駆動する他の部品に影響を与えないよう、EPSの電力を別途確保することが求められる。また、機能安全の面では、大型乗用車で万が一EPSが動作しなくなると、路肩に停止する操作すら難しい「重ステ」状態になるので対策が必要だ。
これら2つの課題を解決する製品として、ジェイテクトはリチウムイオンキャパシターの開発を進めている。リチウムイオン電池ではなくキャパシターに取り組むのは、EPSが瞬間的に大電力を必要とする部品だったためだ。リチウムイオンキャパシターが補助電源となり、6V分の電力を供給する。これにより、補助電源なしの据え切りでEPSが60Aの電力を必要としていたのが、補機バッテリーからの持ち出しが40Aに抑えられるという。
さらに、キャパシターのセル枚数によっては、補機バッテリーとは別に12Vのバックアップ電源として使うことも可能で、ステアリングシステムの異常時にも安全に停止するところまで操舵を継続できるようになる。その場合、EPSの負荷が少ない直進で20分間、旋回などで負荷が発生しても5分間はEPSに電力を供給し続けることが可能だとしている。
ジェイテクトは2017年の東京モーターショーでリチウムイオンキャパシターの試作品を披露し、2018年6月には具体的な量産計画も発表した。2019年4月から東刈谷事業場で月産2000セルの規模の生産を立ち上げ、2019年秋からは花園工場で月産4万セルに生産量を拡大する。
製品としては、キャパシター単体、もしくはキャパシターとバランス回路を組み合わせたモジュール、モジュールに充放電コントローラーも組み合わせたシステムの形で販売する計画だ。他社のリチウムイオンキャパシターにない強みとして、動作温度範囲が-40〜+85℃と広いことを挙げる。電圧を制限すれば105℃でも使用できるという。現在、リチウムイオンキャパシターの特許出願に向けて準備を進めている。
「リチウムイオン電池の知識がある人間が社内に少なく、門外漢のメンバーばかりの状態で開発を始めた。電極と電解液の組み合わせを模索する中で、おそらく専門家は選ばないであろう材料に行き着いた。これが動作温度範囲の拡大につながった」(ジェイテクトの説明員)。
特性を生かして建機農機、航空宇宙にも提案
今後は、開発したリチウムイオンキャパシターを自動車以外に向けても展開していく計画だ。自動車と同様に環境規制への適合が求められている建設機械や農業機械、低温環境での動作が求められる航空宇宙分野などをターゲットとする。
建設機械や農業機械は自動車よりも車体が大きいため、電動化する場合にはリチウムイオン電池ではカバーしきれない水準の瞬間的な出力がモーター駆動で必要になる。そこにリチウムイオンキャパシターを提案する。「キャパシターは電力を供給できる時間が短いが、発電専用の小排気量のエンジンと組み合わせれば建機や農機の長時間の稼働にも対応できると考えている」(ジェイテクトの説明員)。
航空宇宙分野では低温でも動作する特性をアピールする。「航空宇宙分野では-50℃といった環境が当たり前だが、従来のリチウムイオン電池、キャパシターは動作温度の下限が-20℃だった。そのため、その動作温度まで暖機しなければならなかった。われわれのリチウムイオンキャパシターはー40℃まで対応するので、暖機に割くエネルギーを減らすことができる。車載用として持たせた特性が幅広い用途に生きるだろう」(ジェイテクトの説明員)。
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