「何をしてきたか」ではなく「何ができるか」、これからのモノづくりキャリア:ママさん設計者と考える「モノづくりキャリア」(前編)(2/2 ページ)
設計者になるまで紆余曲折があった「ママさん設計者」こと藤崎淳子氏だが、現在は未来を支えるモノイストである児童や学生たちの教育に取り組む。藤崎氏と一緒に、これからのモノづくりキャリアについて考えていこう。
保育士試験から得られたこと
「自分はサービス業なのだ。その手段となる仕事を探しているんだ」と考えながら転職活動をしていると、「その手段を好きになれるか」「没頭できるか」が、ポイントになります。しかし過去の私はとにかく生活優先で、えり好みしていられませんでしたから、「あれでもない、これでもない」といろいろな職業をコロコロと変えながら食いつなぎ、「自分探し」まがいなことをしていました。だから職探しの合間に独学で保育士資格を取って保育士登録もしました。
保育士試験の勉強では、基本六法と社会福祉、児童福祉関連の法律にはじまり、保育原理、教育原理を学び、養護、栄養学、児童心理学、保育実習理論と、理系とも文系ともつかない広範囲の科目を学びました。この資格取得の学習過程で得た知識はとてつもなく多かったのですが、それよりも何よりも、「幼児を養育して社会に送り出すということは、全ての大人に課せられた責務なのだ」と認識したのと同時に、保育士という職業とその存在の重さを思い知ったのでした。
そして、製造業に戻る
さらに「自分ならどんな方法で指導したいと思うだろうか」と思いを巡らしたりもしました。そんな折にプレス金型メーカーの営業の仕事を紹介されたことで、自分が力を注げる業種はやっぱり製造業であると確信して戻ってきたのです。それが30代前半のことでした。
そのくらいの年齢になると、「今まで何をしてきたのか」とか「どんな資格を持っているのか」よりも、「今、ここで何ができるのか」という即戦力を求められます。小さな会社の場合は、「何ができるのか」とは「どのくらい数字を作れるか」という意味も含みます。
私がその時点で持っていた引き出しのうち、その会社で有効と思われたのは「営業力」「工作機械と工具の知識」「材料の知識」「プリント配線板の製造法」の4つくらいだったので、「この引き出しを使ってとにかく数字を上げて、堂々とお給料を受け取りたい」という気持ちで、社内では出来ない仕事も取ってくるようにしました。それが人生初の「設計」の仕事に結びついたわけです。私の経歴について、詳しくは「ママさん設計者は30代で設計を覚えた」をご覧ください。
50代になったら
今日まで製造業界にいて痛感するのは「製造業は日本の屋台骨である」。この一言です。そして、40代後半にもなると、人の一生というのは子どもの頃に思っていたよりもずっと短いものなのだと感じてきます。しかも知力体力とも正常に保った状態での現役生活となると、そう長い期間ではないと悟るようになります。その思いから、2006年の独立時のゴタゴタの中で1つだけ決めた先のビジョンがありました。それは「50代になったらモノづくりを通じて次の世代を育成する仕事にシフトする」ということでした。
人間は生きるためにモノを作ってモノとともに進化して、それが社会の発展につながってきました。いわば、モノづくりは人間の本能なのです。だから人間がモノづくりをやめたとき、人間が人間として生きていく世界は終わってしまうかもしれません。そうならないように、人間は学びながら働きながら経験値を上げて、自律し生きる力をつけることが大切で、それをまた後の世代に引き継ぐ義務があります。
「キャリア」とは、自分の中で完結させるものではなく、連携し連鎖させて国家を支える力になることだといえるのではないでしょうか。(後編へ続く)
Profile
藤崎 淳子(ふじさき じゅんこ)
長野県上伊那郡在住の設計者。工作機械販売商社、樹脂材料・加工品商社、プレス金型メーカー、基板実装メーカーなどの勤務経験を経てモノづくりの知識を深める。紆余曲折の末、2006年にMaterial工房テクノフレキスを開業。従業員は自分だけの“ひとりファブレス”を看板に、打ち合せ、設計、加工手配、組立、納品を1人でこなす。数ある加工手段の中で、特にフライス盤とマシニングセンタ加工の世界にドラマを感じており、もっと多くの人へ切削加工の魅力を伝えたいと考えている。
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