三菱のモノづくりを支える人材育成、4つのポイント:技術承継
2017年2月15〜16日に開催された「Manufacturing Japan Summit」では、三菱電機 人材開発センター ものづくり教室長の織田昌雄氏が登壇。「価値づくりを支えるものづくり人材育成」をテーマに人材育成と技術承継の在り方について講演した。
日本製造業の設計・開発、製造・生産技術担当役員、部門長らが参加した「Manufacturing Japan Summit(主催:マーカスエバンズ)」が2017年2月15〜16日、東京都内で開催。その中で三菱電機 人材開発センター ものづくり教室長の織田昌雄氏が登壇し「価値づくりを支えるものづくり人材育成」をテーマに人材育成と技術承継の在り方について講演した。
グローバル競争が加熱する中で高まる技術資産の価値
三菱電機は売上高4兆4000億円(2015年度期連結業績)、従業員数13万5000人を誇る大手電機メーカーである。人材開発センターはグループ全体の事業推進・強化に貢献する人材の育成活動の役割を担う。基本的な活動は、三菱電機ビジネスイノベーションスクール(MBIS)による経営・事業コア人材の育成、MELCOMゼミナール(Mゼミ)による新人から若手・中堅社員の技術力やビジネススキル力の底上げ、技能教育、人材育成ソリューション提供などだ。本部および関西研修センターは兵庫県尼崎市にあり総人員は約60人。研修センターは神戸市、神奈川県鎌倉市にも開設している。
同センターには開発企画、プロジェクトマネジメントを担当する開発システム教室をはじめ品質・環境教室、電子通信教室、機械教室、営業教室が置かれている。ものづくり教室もこれら教室の1つで、製造企業における二大ビジネスプロセスであるエンジニアリングプロセス、サプライチェーンプロセスの生産技術を主に担当する。
MBISの中のハードウェアものづくりコースも同教室が行っており、同コースでは各事業所から1人を選抜して2年間をかけてコア人材を育成している。設計から製造、品質にわたる工程での全体最適の視点で改善・改革を推進できる中核的技術者を育成する。課長候補者が受講生で「ここでは事業所長や部長らが講師となり、どうやって課題を乗り越えたかなどの苦心談を聞きながら、モノづくりのスタンスやコストの考え方などを学ぶ。さらに、研修生同士、交流や情報交換の場としても活用している」と織田氏は述べる。
モノづくりとコトづくりを組み合わせて価値づくりに
三菱電機では、製品の創造である「モノづくり」とともにサービスの創造である「コトづくり」にも現在力を注いでいる。この両方を高めることで顧客の創造である「価値づくり」に向かい、それが売り上げ拡大につながっていくという考えだ。そして「これらを支えるものとして技術と技能があり、目標性能と品質、目標原価を満たした製品作りが価値作りにつながっていることをしっかり伝えていく」(織田氏)とし、技能を育成・強化・伝承する取り組みを継続実施することに取り組んでいる。
技能を育成し強化・伝承することについては「若い人たちには特に技能面ではルールを守り・守らせる。中堅社員には自分の殻を破れ、新任の職長には今までの担当の立場から離れて、これまで身に付けてきたものを伝えていく『守・破・離』という考えを常に言い聞かせている」(織田氏)。
成長する個々の仕掛けがつながり、ロールモデルやキャリアを示す一連の仕組みを構築している。全国各地の事業所でこの守破離システムを実施しており、さらに全社生産基幹合同訓練、技能競技大会、全社監督者大会などの三菱電機グループの全社大会を通じてつながっていくという形だ。
同社の技能育成・強化・伝承の取り組みの中で社員の目標の1つとなっているのが「技能競技大会」だ。技能向上・技能伝承の象徴的施策であり、1977年の第1回大会以来2016年に39回目を迎えている。2016年の全社大会には精密仕上げ、配電盤組み立て、金属塗装、フライス盤、メカトロニクス、ろう付け、構造物、電子機器組み立て、機器組み立て、NCフライス盤の10職種に117人が参加したという。
同社の技能育成・強化・伝承についてまとめると以下の4つのポイントになるという。
- 技能の育成・強化・伝承の個々の仕掛けに、人間関係の縦のつながりを持ち込むことで、若手・中堅を成長させている
- 技能の育成・強化・伝承の個々の仕掛けをつなげることで、ロールモデルやキャリアを示す一連の仕組みを作り上げている
- グループや全社規模の大会を開催し人がつながることで、各事業所の「技能の育成・強化・伝承の仕組み」が、お互いに影響を与え進化する仕組みを作り上げている
- 三菱電機のトップが技能の育成・強化・伝承の仕組みにコミットし大切にすることで、社員の一体感を醸成している
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