製造業のビジネス変革が加速、「工場外」をどう取り込むのか:MONOist IoT Forum 福岡2018(前編)(2/2 ページ)
MONOist、EE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパン、TechFactoryの、アイティメディアにおける産業向け5メディアは2018年6月28日、福岡市内でセミナー「MONOist IoT Forum in 福岡」を開催した。福岡での同セミナー開催は初となる。
ものづくり白書2018で示す4つの危機感
経済産業省の安藤氏は「2018年版ものづくり白書の概要」をテーマに、毎年「製造業の現状」を取り上げる「ものづくり白書」の内容を抜粋して紹介した。
「ものづくり白書」は毎年発行されているが、2018年版では新たに全体のテーマ性を訴えた「総論」を加えたことが特徴となっている。その中では特に製造業を取り巻く以下の4つの危機感について強調した。
- 人材の量的不足に加え、質的な抜本変化に対応できていない恐れ
- 従来「強み」と考えてきたものが、変革の足かせになる恐れ
- 経済社会のデジタル化などの大変革期を経営者が認識できていない恐れ
- 非連続的な変革が必要であることを認識できていない恐れ
安藤氏は「従来の日本の製造業の手法が今でも強さを実現していることは間違いないが、現在のデジタル変革の時代に合わせた形としていかなければ、その強みも失われることになる。また、従来日本の製造業は『現場』の強さで成長してきたが、変化の時代には現場だけでは追随できない問題もある。これらの『変化への対応』と『経営力への要求』を強く訴えた点がポイントだ」と述べている。
これらの4つの危機感から、具体的に取り組まなければならない課題として挙げるのが「深刻化する人手不足の中での現場力の維持・強化、デジタル人材などの人材育成と確保の必要性」と「新たな環境変化に対応した付加価値獲得の必要性」の2点である。
具体的には「人材不足への対応」についてはIoTやAIの活用による効率化と現場力の再構築などを推進する。一方の「付加価値の向上」については、日本政府が訴える「Connected Industries」を推進し、「モノ」から「コト」へのサービス・ソリューション化を推進。これらを支える施策などを打っていくという。
人材不足は深刻化
ものづくり白書では毎年、独自のアンケート調査なども実施しているが、人材不足については深刻化が増していることが分かる。2016年度の調査では22.8%だった「大きな課題となっており、ビジネスにも影響が出ている」とした回答は、2017年度調査では32.1%に拡大。一方で「特に課題はない」とした回答は19.2%から5.8%に減少しており、多くの製造業が「人手不足」を課題だと認識ている状況が明らかになっている。
対応策としては、採用の強化がある一方で「現状では対応できていないが、今後行いたい取り組みとしては、IT、IoT、ビッグデータ、AIなどの活用や、ロボットや自動機の導入などが挙がっており、先進技術を有効活用しようという動きは強くなっている」と安藤氏は述べている。
一方で「データの収集、利活用にかかわる戦略や計画を主導する部門」では、2016年度調査までは「製造部門」とした回答が最も多かったが、2017年度調査では「経営者、経営戦略部門」が55.1%と最多となり「データ活用が付加価値創出の観点からも経営レベルの問題なっていることが分かる」と安藤氏は述べる。
ただ、データ収集やデータ活用についての調査結果は、2016年度調査と2017年度調査で大差なかったことから「経営課題と認識されてきたが、具体的なアクションにはつながっていないことが分かる」と安藤氏は危機感を募らせる。
「『経営者がデータ戦略で何をするか決められていない』『誰に何をさせるかを組み立てられていない』『現場を具体的に動かせていない』という3つのパターンが考えられる。これらを実際に価値に変えていけるように支援していきたい」と安藤氏は述べている。
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