ベンツの新型車は組み込みAIを採用、ザイリンクスとの共同開発で:車載半導体
ザイリンクスは、同社のAI(人工知能)ソリューションがメルセデスベンツブランドの新型車に搭載されると発表した。ザイリンクスとダイムラーで車載システムを共同開発する。オートモーティブアプリケーションでの深層学習(ディープラーニング)による処理に、ザイリンクスのソリューションであるSoC(System on Chip)とAIアクセラレーションソフトウェアを採用することが決まった。
ザイリンクス(Xilinx)は2018年6月26日(現地時間)、同社のAI(人工知能)ソリューションがメルセデスベンツブランドの新型車に搭載されると発表した。ザイリンクスとダイムラーで車載システムを共同開発する。オートモーティブアプリケーションでの深層学習(ディープラーニング)による処理に、ザイリンクスのソリューションであるFPGAやアプリケーションプロセッサとFPGAを集積したプログラマブルSoC(System on Chip)とAIアクセラレーションソフトウェアを採用することが決まった。現時点では、オートモーティブアプリケーションの機能の詳細や、搭載される新型車の投入時期は非公表とした。
既に、ドイツとインドにあるメルセデスベンツの研究開発拠点で、ザイリンクスのプラットフォームへのニューラルネットワークの実装を進めている。ザイリンクス日本法人の代表取締役社長を務めるサム・ローガン氏は「組み込みでAIによる推論を提供することは確定だ。ダイムラーはさまざまのアーキテクチャを試した上で、ザイリンクスの低レイテンシ(遅延)を高く評価した。NVIDIAはダイムラーにとってAIの学習に関するパートナーではある。しかし、GPUは推論には向かない」と説明している。
ダイムラーでユーザーインタラクションやソフトウェアの担当ディレクターを務めるジョルジュ・マッシン氏は、「ザイリンクスとの戦略的提携により、AI技術を搭載した製品の開発を加速させる。車載システムは熱的に制限された環境での動作が避けられないが、協業を通して低レイテンシで電力効率の高いソリューションを活用できる」とコメントを発表した。
ザイリンクスの米国本社でオートモーティブ事業部 シニアディレクターを務めるウィラード・トゥ氏は、FPGAをディープラーニングに用いる利点について、短い遅延時間と高い処理性能を挙げた。GPUは幾つもの命令処理をまとめて実行するバッチによる並列処理で推論を行っているため、少量バッチでは演算効率が低下するという。トゥ氏は、処理量によって遅延時間が変動することも指摘した。これに対し、バッチを使用しないFPGAでは、遅延時間が少なく、一定になるという。また、データ量に関わらず処理性能を維持できる点も強みだと述べた。
トゥ氏は、現在開発されているLiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)や、仰角や相対速度まで検出できる次世代ミリ波レーダーといったセンサーの処理にも、ザイリンクスの製品の処理性能が優位性を発揮すると説明。また、各種センサーのレイアウトなど設計に変更が生じやすい段階の自動運転システムのセントラルモジュールにも、同社製品のスケーラビリティが適しているという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 芽吹くか「組み込みAI」
第3次ブームを迎えたAI(人工知能)。製造業にとっても重要な要素技術になっていくことは確実だ。2017年からは、このAIを製品にいかにして組み込むかが大きな課題になりそうだ。 - いまさら聞けない FPGA入門
あなたは、人に「FPGA」を正しく説明できるだろうか? いまや常識となりつつあるFPGAについて、あらためてその概念から仕組み、最新動向までを解説する。(編集部) - 運転支援システムの開発、ASICにする? FPGAにする?
FPGA大手のザイリンクスが記者向けに勉強会を実施し、先進運転支援システム(ADAS)でFPGAを使うメリットを解説した。車両や歩行者、白線などを認識する処理は、FPGAの得意分野だという。コストや性能の面からも、FPGAはADASで強みを発揮しそうだ。 - デンソーがクルマに載せられるAIの開発に注力、「かなり早めに出せる」
デンソーが東京都内で報道陣向けにAI(人工知能)取材会を開催。自動運転やADAS(高度運転支援システム)向けでAIを実用化するために開発しているさまざまな技術を、デモンストレーションで披露した。 - ローエンドのFPGAがドライバー監視や電子ミラーを実現、消費電力4.6Wで深層学習も
ザイリンクスは「オートモーティブワールド2017」において、ローエンドの同社FPGAを使用した高度運転支援システムのデモンストレーションを行った。「高コストなASICの納入を待たなくても、FPGAの1チップで実現できることは多い」(ザイリンクス)ということをアピールした。 - ザイリンクスが7nmプロセスの新製品「ACAP」を投入、AI処理性能は20倍以上に
ザイリンクスは、新しい製品カテゴリーとなる「ACAP」を発表した。これまで同社が展開してきた製品とは異なるカテゴリーに位置付けられ、幅広いアプリケーションとワークロードの需要に適応可能とする。TSMCの7nmプロセスで開発されており、2018年内に開発を完了し、2019年に製品出荷を始める計画だ。 - FPGA拡大の波に乗るOKIアイディエス、運転支援で車載向け狙う
グローバル化が加速する中で、国内EMSとして成長を続ける沖電気工業のEMS事業本部。その中で組み込みソフトウェアの開発を行っているのがOKIアイディエスだ。同社は画像関連やFPGA関連の開発実績を生かして成長を続けており、今後は車載向けの開拓を本格化するという。 - ルネサスの組み込みAIの性能は10倍×10倍×10倍で1000倍へ「推論に加え学習も」
ルネサス エレクトロニクスは、汎用事業の成長ドライバーに位置付ける組み込みAI(人工知能)技術「e-AI」をさらに強化する。現在のMCU/MPUを用いた組み込みAIによる推論モデルの処理性能を、2018年夏に10倍、2019年末にさらに10倍、2021年にさらに10倍にして1000倍を目指すという。