暗黙知を形式知化せずにそのまま活用、AI搭載ナレッジ共有サービスが示す価値:製造ITニュース
図研プリサイトは、同社が展開するナレッジ共有ソリューション「Knowledge Explorer(ナレッジエクスプローラー)」にAI機能を搭載し、2018年10月に市場投入する。
図研プリサイトは、同社が展開するナレッジ共有ソリューション「Knowledge Explorer(ナレッジエクスプローラー)」にAI(人工知能)機能を搭載し、2018年10月に市場投入する。
Knowledge Explorerは熟練設計者が製品設計時に過去の製品情報やトラブル情報などを参照するノウハウをシステム化したもの。Word、Excel、PowerPointなどのMicrosoft Office文書、PDF文書、HTMLなどの複数の情報源を参照し、必要とする設計者に、必要なタイミングで、必要となる情報をプッシュ型で通知する。熟練技術者の「どんな情報を、どういうところから参照して作業を進めているか」というノウハウをそのまま利用可能とし、経験の浅い社員でも熟練技術者と同等の作業効率を達成できるようにすることが狙いだ。
2014年の発売後、設計者の技能承継などの観点から一定の評価を受けてきた。従来、文書における「重要語句の抽出」は、全てルールベースの統計処理で行ってきた。ただ「このやり方では重要語句の抽出について、客観性の担保ができなかった。また、新しい文書を登録するたびにルールの設定を無限に行う必要があり、運用面で問題を抱えていた」と図研プリサイト 開発部 コグニティブテクノロジー開発課 課長の外村亮輔氏は課題について語る。
さらに「文書の読み取りを行う際に、PDFファイルの改行部分などでうまく読み取れていない部分も多く、これらがノイズとなって必要なドキュメントを表示できないケースもあった。うまく設定できているところは高精度で求める結果が出るが、そうでない場合は、レコメンドの精度が不足する面があった」と外村氏は語る。
AIで「重要語句の抽出」と「単語連結」
そこでこれらの課題を解決するために取り組んだのがAIの活用である。AI技術は2017年11月に設立されたAIベンチャーであるギリアから提供を受け、この「重要語句の抽出」における判定にAIを適用。さらにその前段階の処理である「単語の抜き出し」や「連結処理」においてもAIを適用する。
ギリアは任意の文書のコンテキスト(意味)分析や重要語の抽出などの自然言語処理技術を持つ。図研プリサイトで以前から行ってきた設計や製造などの専門文書などの知見を組み合わせることで、新たな価値を創出する狙いである。
仕組みとしては、まずは文章中の文字情報を抽出し、品詞ベースで分解。その後、AIを活用して意味ベースで単語を連結する。例えば「省電力」などは「省」「電」「力」などに分解できるが、意味を考えれば「省電力」で1つのかたまりと捉えた方がよい。このように意味のかたまりで単語を組み合わせる作業を行う。
そして、意味のかたまりの集合体ができたところで、AIを活用し「重要語句」を抽出。この「重要語句」と適合する文書を関連レコメンド文書として表示するという流れだ。文書を重要語句のベクトルで捉えており、その適合度でレコメンド文書のマッチングを示す。外村氏は「従来あった単語連結誤りを4分の1以上低減することに成功した」と述べる。
製品として提供するAI搭載ナレッジエクスプローラーは学習済みAIを搭載しているために、ユーザーは新たに学習データをそろえたり、学習させたりする必要がないという点も特徴だ。インストール後すぐに重要語句抽出AIを利用可能である。
図研プリサイト 代表取締役社長の上野泰生氏は「暗黙知としての非構造化情報を形式知化する負担を考えると、形式知化そのものが現場レベルでは現実的ではないといえる。その中で誰でも意識せずに使えるようにするには、暗黙知を暗黙知のままで活用できるような仕組みが必要だ。ナレッジエクスプローラーは一部ではあるが、それを実現する」と考えを述べている。
AI搭載ナレッジエクスプローラーのターゲットは製造業の研究開発部門、設計部門、生産部門、品質保証部門などで、価格は定価660万円。2018年度(2019年3月期)内に50本の販売を目指すとしている。
関連記事
- 間に合うか!? 熟練技術者の“暗黙知”承継――カルソニックカンセイの場合
技術者の引退や、海外での設計・製造業務の早期立ち上げなどに対し、熟練技術者が持つ形式知・暗黙知を伝える“技術承継”への危機感が高まっている。ジェムコ日本経営が開催したセミナー「技術伝承フォーラム(第五回変革の賢人フォーラム)」では、自動車部品メーカーのカルソニックカンセイが登壇し、ナレッジマネジメントシステムの構築事例を紹介した。 - 図研、熟練設計者のナレッジ活用方法をシステム化した「Knowledge Explorer」を提供開始
Word、Excel、PowerPointなどのMicrosoft Office文書、PDF文書、HTMLなどの複数の情報源を参照し、必要とする設計者に必要なタイミングで必要となる情報をプッシュ型で通知する。 - 三菱のモノづくりを支える人材育成、4つのポイント
2017年2月15〜16日に開催された「Manufacturing Japan Summit」では、三菱電機 人材開発センター ものづくり教室長の織田昌雄氏が登壇。「価値づくりを支えるものづくり人材育成」をテーマに人材育成と技術承継の在り方について講演した。 - IoTで熟練技術者の技を盗め、生産技能伝承でダイキン工業と日立が協業
ダイキン工業と日立製作所は、IoTを活用し熟練技術者の技能伝承を支援する次世代生産モデルの確立に向け協業する。まずは空調機器の戦略技能の1つであるろう付け工程のデジタル化を実現し、今後さらに対象技能を広げていく方針である。 - 協働ロボット、ロボットシステムに残された課題と未来
協働ロボットを現場で活用するのにどのような工夫が必要か――。ロボット技術の総合展示会「2017国際ロボット展」では、ロボットメーカーおよびユーザー企業によるパネルディスカッション「ロボットフォーラム2017」が実施され、協働ロボットの意義について語った。 - これが東芝の生きる道、デジタル変革で実現するモノづくり新時代
東芝 執行役専務で東芝デジタルソリューションズ社長の錦織弘信氏が「SCF2017/計測展2017 TOKYO」の基調講演に登壇。「デジタルトランスフォーメーションで実現するモノづくり新時代」をテーマにデジタル化の現状と東芝の取り組みを紹介した。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.