月探査賞金レースGoogle Lunar XPRIZEの意義とは、HAKUTOの8年間の軌跡を追う:宇宙開発(4/4 ページ)
2018年3月末に「勝者無し」という形で幕を閉じた月面探査レース「Google Lunar XPRIZE(GLXP)」。果たしてGLXPに意義はあったのか。最終段階まで苦闘を続けた日本のチーム、HAKUTOの8年間の軌跡を通して大塚実氏が探る。
人類が月面に住む時代は来るのか
ここまで、あえて言及を避けてきたのだが、人間が月や火星に行く目的は何なのだろうか。もちろん、科学的な理由はその1つだ。しかし、科学探査であれば、基本的には無人でいいし、人間が必要な場合も少人数で十分だろう。ispaceが描くような、月面に街が生まれる理由としてはちょっと考えにくい。
筆者はもう10年以上も、そのことについて考えてきたが、いまだに万人が納得できるような理由を見つけることができない。個人的には、「人類の種としての本能的な欲求」という考えが一番すっきりするし、筆者自身もそれ故「普通の人間が月面に定住する未来」を見たいと思っているが、「宇宙開発より地上の問題にカネを使え」と言われれば、納得させる自信はない。
だが、万人が納得するような理由なんてものは、おそらく無いのだろう。人類が半世紀前、月面に足跡を残せたのは、冷戦という特殊な事情があったからだ。人工衛星、有人宇宙飛行でソ連に先を越された米国には、月面への到達では絶対に負けられない事情があった。だからこそ、青天井の予算を注ぎ込み、アポロ計画を力ずくで実現させた。
アポロでは、月に行くことが「目的」そのものだった。しかし継続的に続けるためには、月に行くことは「手段」に変わり、別に「目的」を探す必要があった。アポロ以降、長らく有人月面探査が無かったのは、コストに見合い、万人が納得するような「目的」を見つけられなかったからだろう。
しかし、民間であれば話は別だ。国のプロジェクトには税金が使われるため、多数の人を納得させる必要があるが、民間であれば、納得できる人が投資し、納得できる人が行けばいい。自らの責任でリスクを負えるので、動きも早い。そうして経済活動が活発化してくれば、国が動く大きな理由にもなる。
宇宙開発を国だけが主導する時代はもう終わっている。スペースXが、独自に有人火星探査を目指しているのはその象徴といえる。同社は2024年に宇宙飛行士を送り込むとしており、さすがにそれは無理だろうとも思うが、もしかしたら民間の宇宙飛行士が国より先に火星に到達するかもしれない。
国と民間が、ときに協力、ときに競争しつつ、現在の宇宙開発は進んでいる。民間の存在感を加速させた1つの要因として、GLXPが与えた影響は決して小さくはないだろう。現在検討中の新レースについても期待したいところだ。
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