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月探査賞金レースGoogle Lunar XPRIZEの意義とは、HAKUTOの8年間の軌跡を追う宇宙開発(3/4 ページ)

2018年3月末に「勝者無し」という形で幕を閉じた月面探査レース「Google Lunar XPRIZE(GLXP)」。果たしてGLXPに意義はあったのか。最終段階まで苦闘を続けた日本のチーム、HAKUTOの8年間の軌跡を通して大塚実氏が探る。

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最大の課題は資金、どう解決する

 前述のように、GLXPでの最大の難関は、技術力ではなく、むしろ資金力だった。いくら高度なローバーを作ったところで、資金がなければ打ち上げることができない。実際に打ち上げるためには、各チームがビジネスモデルを考え、民間から投資を集める必要がある。GLXPは、技術開発と事業開発の両側面を持つレースなのだ。

 HAKUTOも資金の獲得には苦労していたが、中間賞の受賞をきっかけに好転。支援する企業が集まり始め、2016年3月には、KDDIとオフィシャルパートナー契約を締結できた。またチームインダスへの変更によって不足した資金の一部をクラウドファンディングで募集したところ、目標を上回る3372万円という金額を獲得することに成功した。

 しかし結果的には、各チームとも、資金の調達が遅すぎた。HAKUTO代表の袴田武史氏は、2018年1月の記者会見で、「資金調達して本格的に開発できるようになったのはこの3〜4年。もう少し資金調達が早くできて、技術開発の時間をしっかり取れれば、技術的には十分達成できた難易度だった」と発言し、悔しさを滲ませた。

HAKUTO代表の袴田武史氏
HAKUTO代表の袴田武史氏。運営企業ispaceの代表取締役でもある

 しかし、HAKUTOの活動は終了しても、月面へのチャレンジは終わっていない。HAKUTOを運営していた宇宙ベンチャーのispaceは、2017年12月、産業革新機構などから100億円超の資金調達に成功。これを元手に、独自に2回の月面探査ミッションを行うことを明らかにしていた。今度は相乗りではなく、ランダーまで自社で開発する計画だ。

 この資金調達も、もしGLXPがなかったとしたら、実現しなかったのではないだろうか。GLXPにより、民間による月面探査の機運が世界的に高まり、実際にランダーやローバーを作り、ロケットの打ち上げ契約を締結するチームが現れた。今なら、誰も民間による月面探査を夢物語だとは思わない。この「現実」を作り出したのはまさにGLXPの功績だ。

ispaceミッションのイメージCG
ispaceミッションのイメージCG(クリックで拡大) 出典:ispace

 Ansari XPRIZEのときは、「宇宙旅行」という分かりやすいビジネスモデルがあった。だが月面では、どんな事業が成立するのか。その1つとして検討されているのは、月面の資源開発である。例えば水は、ロケットの燃料になり、生命維持にも欠かせない。将来、人類が月面で活動する際に、活用できると期待されている。

 ispaceは、2040年には月面に1000人が住み、年間1万人が訪れるというビジョンを提示している。そのための最初のステップとして、早ければ2019年末にも、1つ目の月探査ミッションを実施する。

「ispace 2040 Vision」(クリックで再生)

 このミッションでまず月周回を行い、次のミッションで月面着陸する計画だが、最初のミッションでも試験的に月面着陸を狙うことを考えているという。タイミングが合えば、このミッションで新レースに参加する可能性もあるだろう。

 これら2回のミッションで技術を実証した後、同社は2021年以降に、月面輸送サービスを商業展開していく予定。目指すのは「月面への定期便」で、最終的には毎月1回打ち上げるようにしたいという。

ispaceのロードマップ
ispaceのロードマップ。定期的にランダーを送り続ける(クリックで拡大)

 月面輸送サービスを考えているのはispaceだけではない。GLXPで当初の相乗り先だったアストロボティックは、2020年に1機目のランダーを打ち上げ、以降、定期的にミッションを実施していく計画だ。同社がGLXPから撤退したのは、技術的、資金的な理由で断念したわけではなく、GLXPに頼らずとも独自にミッションを行えるめどが立ったという判断だろう。

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