スマート工場化で起こり得る課題、カシオがタイ工場で得たもの(前編):スマート工場最前線(3/3 ページ)
カシオ計算機では、主力生産拠点の1つであるタイ工場で新たな自動化生産ラインを稼働し、スマート工場化に向けた歩みを開始した。タイ工場が担う役割とは何か。現地での現状と苦労について前後編で紹介する。
世界の数学授業での採用が拡大する関数電卓
なぜ関数電卓ラインで自動化を進める必要があったのだろうか。それには主に2つの理由がある。
1つは、関数電卓の需要増加である。日本では理系の大学や工業高校以外ではあまり使われていない関数電卓だが、世界各国では義務教育の範囲で数学教育で活用する動きが広がっている。現在カシオ計算機では教育事業向けへの取り組みを強化しているが、関数電卓も授業で採用されている国は欧州や北米、中近東、アフリカなどに広がり、今後も拡大する傾向だという。
タイで採用するケースなども徐々に出てきており、カシオ(タイランド)と同じナコンラチャーシーマ県にある中高一貫校のパクチョンスクールでも数学授業で関数電卓を採用しているという。パクチョンスクールの数学教師であるジャムロエン・アナンタサムロス(Jamroen Anantathamros)氏は「関数電卓を使うことで数学に興味のない学生でも興味を持って数学を学べる。また、数学の計算の手間を軽減することで、本質的な数学的思考や多面的なアプローチを学ぶことができる。現実世界を読み解くツールの1つが数学だと考えているが、テクノロジーを現場に持ち込むことで実際の世界の課題をより教育現場に近づけていくことができる」と先進技術を教育に活用する意義について述べている。
カシオ計算機では、世界の数学教師のニーズを把握するために「グローバルティーチャーズミーティング」を2004年から開催。各国の数学の動向や教え方などの傾向を踏まえて、商品開発を進めているという。多言語化なども進めており、プログラムもカリキュラムごとに変更して出荷しているという。
これらの取り組みから、国別専用機は14エリア、52モデルの展開となっており、個々の国向けの製品を作り分けていく必要がある。こうした多品種カスタムモデルの生産量が拡大することから生産性向上が必須となっているというわけである。
人件費高騰が進むタイ
もう1つの理由がタイの人件費の高騰である。関数電卓の需要拡大が進む一方で、生産に必要なコストが今後も上昇し続けるということが見えており、人手による生産工程の比率を下げていくことが求められているというわけである。
タイでは法制度により2011〜2012年にかけて最低賃金が1日200バーツ前後から300バーツに一気に引き上げられた。2013年1月からは地方格差もなくすという法制が施行され、2013〜2016年まではその基準が守られていた。しかし、2017年には5〜10バーツ程度の引き上げと地方ごと価格の復活が行われ、2018年4月にはさらに5〜22バーツの引き上げがあった。
臺場氏は「タイでも最も高いチョンブリ県やラヨーン県は1日330バーツとなっている。コラートは308バーツから320バーツに引き上げられた。今後も最低賃金上昇の動きは続くと見ている。そのため、安定的なコスト環境を維持していくために自動化領域の拡大が必須となる」と自動化の意味について述べている。
カシオ計算機では、国内工場のである山形カシオのマザー工場化を進めており、2016年4月に同工場内に生産技術センターを設置。自動化技術など、事業部や生産品目を越えた生産技術の向上に取り組んでいる。この山形カシオの技術ノウハウなどを活用し、日本の羽村技術センターなどで設計・開発を行い、実証をへたのち、2017年8月にタイ工場での自動化ライン導入を行った。
試作ラインでの実証を入念に行った導入だったというが、現実的にタイ工場での実導入で成果を残すにはさまざまな障壁を乗り越える必要があったという。現在では、生産性も1.6倍に高める成果が出ているというが、その間にはどのような苦労があったのだろうか。
後編では自動化ラインでの具体的な取り組みについて紹介する。
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