“捨てるために作る”モノづくり、世界中に正しく届けるための工夫:メイドインジャパンの現場力(14)(2/2 ページ)
製造業の役割はモノを作るだけではない。顧客のもとに正しくモノを届けるという役割も担う。その役割を、環境への配慮なども含めてより高いレベルで達成しようと取り組んでいるのが京セラドキュメントソリューションズである。
梱包ソリューションの設計力を継続的に強化
京セラドキュメントソリューションズが特徴的なのが、こうした難しい課題に対して継続的に挑戦し続けるとともに、開発プロセスの強化を進めている点である。具体的に大きな効果を生み出しているのが3D CADと、さまざまな衝撃試験機の導入である。
3D CAD導入で製品と梱包の一体開発を実現
梱包材は製品を守るためのものだ。そのため、製品の形状ができなければ梱包材も設計できない。従来は、製品開発が進み、量産試作などが始まった頃に量産試作機を入手し、検証や設計を開始していた。量産までの評価期間が短く、強度が足りないことが分かっても設計までフィードバックすることは難しく、包材を追加することで対策していたのが実情だった。
中村氏は「製品設計側の少しの工夫で強度が上がり、包材が必要なくなるようなケースもあったが、量産開始までに間に合わないために仕方なく、梱包材で強度を補強する形で出荷するものも多かった。製品側で対策が必要なのか、梱包側で対策が必要なのか責任分担が不明瞭であるという課題もあった」と当時を振り返る。
しかし、製品設計側で導入していた3D CADを梱包設計でも導入したことで、製品開発においてプロトタイプの出図が終わり金型試作に入る段階で、その製品データをもとに梱包設計を開始できるようになった。そして製品が量産試作を行っている段階で同時に梱包対策品を投入し、同時に評価を行い、輸送に問題がないかを確認できるようになったという。中村氏は「製品開発と同時に梱包材の開発も始めることができるようになったため、無駄な梱包材を抑えて適正な梱包を追求できるようになった」とその価値について述べている。
さらに中村氏は「製品輸送時に不具合が生じた場合、従来は梱包設計の不備や梱包材の不足が指摘される場合が多かった。しかし、製品と梱包の一体設計が進んだことで、データをもとにどうすればよかったのかを議論できるようになった。さらに改善を実現するために『どちらがどのように追い込むほうが効率がよいのか』などの議論を深めることができている」と意義を強調する。
各種試験装置の充実
3D CAD導入と同時に効果を発揮するのが各種試験設備の充実である。京セラドキュメントソリューションズでは落下衝撃試験や圧力試験、振動試験を行える各種設備を用意しており、これを製品だけでなく、梱包開発にも活用している。
製品試作段階から各種試験を行ってデータを取得することで強度不足の箇所を特定し、梱包材でどういう補強をすればよいのかを試行錯誤して、最適な梱包を実現する。一般基準よりも厳しい独自基準を適用しているという。
これらの各種試験が行いやすいように、自動段ボール切断設備なども活用。設計データを展開図化し、自動で段ボールを切断。梱包材の形に切り抜き、すぐに試験が行えるようになるという。「従来は梱包担当者が自分で切り抜いて試作を行っていたが思い付いたらすぐに試作できるようになった。この工程での作業時間は10分の1以下になっており、本質的な試行錯誤に時間が使えるようになった」と中村氏は語る。
これらの設備を活用することで、梱包の効率化を実現。特にパルプモールドなどの紙材におけるノウハウはまだまだ梱包業界でも潤沢であるとはいえず、箱のサイズの削減や梱包材量の低減などに大きく貢献しているという。
中村氏は「繰り返しになるが、梱包材は顧客のもとに届けば必要なくなるものだ。そのため『輸送期間中により少なく効率的に製品を守る』という観点が重要になる。緩衝材などをより少なく強度を維持できるというのがベストだ」と述べる。
今後に向けて中村氏は製品設計側へのフィードバック強化と紙材梱包でのノウハウ蓄積に力を入れているという。「適正梱包の考え方に立つと梱包材だけではなく、製品設計側に工夫を促すことで全体最適が実現できるケースも出てくる。一体設計できる価値を生かし、こうしたフィードバックにも積極的に取り組んでいく。また、紙材の梱包ノウハウはデータ化されていない領域も多い。こうした仕組みを解き明かすような取り組みも進めていき、紙材の適用箇所を増やしていきたい」と中村氏は抱負を述べている。
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