自動車が目新しくない「CES 2018」は「ビジョン」から「ビジネス」の段階へ:次世代モビリティの行方(1)(3/3 ページ)
これまでスタンドアロンな存在だった自動車は、自動運転技術の導入や通信技術でつながることによって新たな「次世代モビリティ」となりつつある。本連載では、「CES」や「Mobile World Congress」などの海外イベントを通して、次世代モビリティの行方を探っていく。第1回は「CES 2018」の自動車関連の動向をレポートする。
自動車への5G活用
これまで通信についてはほとんど語られなかったCESだが、CES 2018の技術領域における主役の座に君臨したのが「AI」と「5G」だった。
5Gのユースケースとしてこれまで長年「自動車」が語られてきた。通信業界の「ミッションクリティカルな場面でも活用できる」といううたい文句に対し、自動車業界からは「人命にかかわることを、わずかであっても接続が確立されない時間を有する通信に委ねるわけにはいかない」との考えから、しばらくの間平行線をたどっていた。その中で、運転支援と安全性確保の観点から、5Gを活用したV2X(Vehicle to X)通信に注目が集まっており、2020年の5G仕様の標準化に向け、ソリューションも具現化しつつある。
サムスン:5Gを活用したファーストレスポンダーソリューション
5Gのユースケースの1つとして注目されるのがスマートシティーだ。サムスン(Samsung)は、CES 2018で発表した自動運転プラットフォームの他、テレマティクスシステムに5Gを搭載することで安全かつ迅速な緊急輸送を実現できるコンセプトを紹介した。
5Gはセルラーネットワークであることから、クルマ、人、インフラなどさまざまなものとつながることが最大のメリットであると同社は強調する。例えば、救急車が緊急搬送を行っている場合、クルマだけでなくヒトにも、救急車が近づいてきていることを知らせることができる他、インフラと連動させることで信号を最適なタイミングで変えたり、交差点などブラインドスポットの状況も的確に把握できたりすることから、減速することなく安全かつ迅速な緊急輸送を実現できるする。サムスンはこのコンセプトの実現に5Gは不可欠であるとし、ブース内に5Gアンテナとレシーバーを設置して通信速度で約2Gbpsの実測値をアピールするなど、5Gへの取り組み強化をアピールした。
ヴァレオ「XtraVue」:シースルーによる視界の確保
フランスの自動車部品メーカーであるヴァレオ(Valeo)は、クルマに搭載されたスマートアンテナとレーザスキャナー(SCALA)、コンピュータ画像カメラシステムとを組み合わせることで、前方を走る車両の前の道路状況などを、車載ディスプレイにストリーミングで表示する「XtraVue」の開発を進めている。モバイル通信ネットワークを活用し、車車間/路車間などのV2X通信により収集されたデータを統合して表示を行う事になる。
乗車中の自動車(車両A)が前方を走行する自動車(車両B)と自動的にコミュニケーションをとり、車両Bの前方に搭載されたカメラの映像をストリーミングしてもらう。これと同時に、車両Aに搭載されたレーザスキャナーを活用し、車両Bとの距離を数cm単位まで測定して、車両を特定しつつ距離を見ながらその車体と映像を合成する。右左折時など車両Bが車両Aの視界を遮らなくなれば、自動的にストリーミングを停止し、再び直線を走行して車両Bが視界を遮れば自動的にシースルーを再開する。
2017年のCESでのデモではDSRC(専用狭域通信)を活用した静態展示だったが、CES 2018は実際に2台の車両を走行させながら、常に前方の車両の道路状況が車載ディスプレイに表示されている環境を実現する動態デモを実施した。
このデモは通信にWi-Fiを利用していたが、同社は低遅延や信頼性の面で「5Gが必須である」と断言した。「このソリューションの実現にあたり現時点で技術的に不足しているものは5Gだ」として、商用化時期については5Gの商用化後になる見込みだ。V2X通信を活用したシースルー技術については、他にも開発している企業があるが、ヴァレオは「標準化に向け、高性能化とコストパフォーマンスを追求し、技術開発を加速している」として同領域における意気込みを見せた。
本稿の冒頭に記載したように、自動車領域に限らず、CES全般を通して、業界をひっくり返すような目新しい技術やサービスが出てきたとは言い難い。しかし、これまでコンセプトベースで語られていたことが着実に実現に向けて動いていることを感じ取れるCES 2018だった。
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