イノベーションを生み出す「デザイン思考」とは:いまさら聞けないデザイン思考入門(前編)(3/3 ページ)
現在、日本の製造業で求めらているイノベーションを生み出す上で重要な役割を果たすといわれているのが「デザイン思考」だ。本稿では、デザイン思考が求められている理由、デザイン思考の歴史、デザイン思考と従来型の思考との違いについて解説する。
デザイン思考は何が新しいのか、既存思考との違いとそのプロセス
では、デザイン思考は従来型の思考と何がどのように異なるのだろうか。
まずは下の図を見てほしい。
デザイン思考でコアとなるのが、技術分野では「技術的な実現性(feasibility)」、ビジネス分野では「ビジネス価値(viability)」、そしてデザイン分野では「ヒトのニーズ(desirability)」である。そして、これら3つが交わった部分が「イノベーションの機会」となる。
イノベーションで重要なのは、それを利用するユーザー(顧客)の存在だ。デザイン思考の最大の特徴は、「顧客ニーズを中心に据え、それをコアに製品/サービスを生み出す」というアプローチである。
従来型のアプローチは、技術的な現実性とビジネス価値を満たすことに力点を置いていた。つまり「技術的に可能で、かつ“もうかる”製品やサービス」を作り出すことが第一だったのである。たとえ顧客のニーズがあったとしても、開発部門は「技術的に不可」と却下し、経営層は「もうかるのか(費用対効果のある製品なのか)」で判断を下していた。こうして生み出されるものは、既存の製品やサービスの延長でしかない。「新たな価値を創造する」といったイノベーションを起こしにくい環境だったのである。
では、ここに「顧客ニーズを中心に据える」と何が起こるのか。端的に言えば、技術やコストといった制約が取り払われる。「技術的にできない」「コストが掛かりすぎる」といった制約でも「顧客ニーズがある」となれば取り組まざるを得ないからだ。
以下の図は、デザイン思考のプロセスを体系化したものだ。
注目したいのは、最初のフェーズに「顧客への共感(Empathize)」があることだ。顧客がどのような課題を抱えているのかを実際にヒアリングして理解、共感した上で、顧客の抱えている「問題を定義(Define)」し、その内容を詳らかにする。従来の「売る側が売りたいもの」ではなく、「顧客が何を実現(解決)したいのか。そのために必要なものは何か」を明確にすることで、「誰のためのどのような製品/サービスか」のコンセプトが決定する。
次の「アイデア創出(Ideate)」から「プロトタイピング(Prototyping)」「検証(Test)」は、なるべく短いサイクルで回す。できるだけ多くのアイデアを出し、試作→検証を繰り返す。ここで重要なのは、「試作品は完成度にこだわらない」ことだ。試作品はユーザーからのフィードバックをもらうためのプロセスの一環であり、さらなるニーズを発掘するためのツールの1つであると割り切る。
とはいえ、日本の製造業において「完成度の低い試作品」は受け入れられないことがほとんどだろう。しかし、この現状を打破しなければ、イノベーションは起こせない。
そこで後編では、デザイン思考のプロセスの解説と併せて、SAPとランドログ/コマツにおけるデザイン思考の導入事例を紹介したい。
プロフィール
明石 宗一郎(あかし そういちろう)
アクセンチュア入社後、業務・ITコンサルタントとして官公庁、製造業、通信メディア、エンターテインメント業でプロジェクトリーダーを歴任。SAPジャパン入社後はソリューション統括本部にて主に製造業の顧客を担当、ソリューション提案やコンサルティング経験を持つ。2017年10月よりSAPジャパンからランドログに出向、同社のCDO(Chief Digital Officer)に就任。
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