自動車アセスメントのための技術開発ではない、もっと安全なクルマを作るため:大学キャンパス出張授業(2/2 ページ)
自動車業界の経営トップが大学生にクルマ・バイクの魅力や楽しさ、日本のモノづくりの重要性を伝える「大学キャンパス出張授業」。安全という個性を確立するまでの取り組みを伝えた、東京工業大学でのスバルの講演を紹介する。
個性だけを残すまでの道のり
スバルの近年の販売台数伸長や業績の拡大のポイントとしては「飛行機会社」「技術オリエンテッド」「高コスト体質」の3つのキーワードあるという。
「われわれの技術陣の根底にあるのは、落ちる飛行機を作りたくないという飛行機のエンジニアの精神だと思う。安全なクルマを作りたい、事故をなくしたいと安全を第一に考えてクルマを作ってきた。それは素晴らしいことだ。EyeSight(アイサイト)の搭載によって、ぶつからないクルマということで人気を得たのが2010年頃だ。その20年前には技術陣が既にこの技術を研究していた」(吉永氏)という。
「あまりにもいいものを作りたいと思い、そのため高コストになることがある。スバルにはこういう特徴もある」と吉永氏は付け加えた。
世界の自動車市場は2004年の6000万台から2015年には9000万台に拡大し、2018〜2020年の間には1億台に到達すると予想されている。グローバルで見れば自動車は成長産業であり、新興国では成長が見込まれている。
トヨタ自動車やVolkswagen(VW)、General Motors(GM)、ルノー日産アライアンスなどは販売台数が1000万台前後にもなるが、「スバルは世界市場の1%」(吉永氏)。これがスバルの戦略のベースとなったという。
「経営資源は限られており、量が勝敗を決する戦いはできない。そこで何が個性か、強みはあるのか10年ほど前に若手社員を中心に議論してもらった。そこで出た答えは“環境ナンバーワン”だった。しかし当社には当時ハイブリッド車など環境に優しいクルマを開発する研究費はなかった。これまで当社のユーザーからどこを支持していただいていたのかを考え、絞り出したのが安全性だった」(吉永氏)。
「選択と集中、差別化、付加価値というありきたりな言葉だ。しかし、これらを突き詰めた議論をして本当に実行できるかどうかが全てだ」(吉永氏)と強調した。
スバルではまず「事業の集中」を行った。風力発電事業、塵芥(じんかい)収集車事業を2011年度末に譲渡し、産業機器事業は2017年9月末に終了した。続いて「クルマの中での集中」を進め、軽自動車の開発と生産を2012年2月にストップした。国内市場の4割を占める軽自動車から撤退したのは「スバルが世界の中でどう生き抜いていくかを最優先に考えた結果だ」(吉永氏)という。
安全への集中が生んだ成果
経営資源も集中させ、「XV」「BRZ」「レヴォーグ」などの車種を新たに投入した。さらに「技術の集中」にも取り組んだ。この具体的な内容については日月氏が紹介した。スバルは「安心と愉しさ」をアピールした商品戦略を展開している。主力の「インプレッサ」はJNCAP(日本版NCAP)の安全性能総合評価において、乗員保護性能と歩行者保護性能、そしてこれらの項目の合計得点でも過去最高を記録し、衝突安全性能評価大賞を受賞した。
アイサイトだけでなく、歩行者保護エアバックの標準装備化などにより「ぶつかっても死なないクルマであり、ぶつかられても死なないクルマ。そして、ぶつけても死なせないクルマ」(日月氏)という特徴を持たせた。これが「安心安全な車とはどういうクルマなのか」という答えにつながっているという。同時に、走行車両検知自動ブレーキなどより「他のクルマにぶつからない、ぶつけないクルマ」も目指した。
「規制があるからそれに応じた技術を開発しているのではなく、より高いレベルの安全なクルマを作ろうと考えながら取り組んできた。それにより技術は進歩してきた」(日月氏)。その結果、米国でも保険会社の格付けで高レベルを獲得。これがマーケティングに結び付き、安全が企業の利益につながっている。
最後に日月氏は企業における技術者とは「安全性能の試験でよい点を取れるように頑張っているのではなく、ドライバーが安心して乗れるクルマは何か、クルマ社会や自動車業界はどうあるべきか疑問を持ちながら、どういう風に生きていくべきなのか考える。それは単純に技術を追求するのではなく、技術を通じて世の中と向き合うことだ」と結論付けた。
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