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生産現場一筋のトヨタ副社長が学生に教える、「自働化」の在り方大学キャンパス出張授業(1/2 ページ)

自動車業界の経営トップが大学生にクルマ・バイクの魅力や楽しさ、日本のものづくりの重要性を伝える「大学キャンパス出張授業」。東京大学で登壇したトヨタ自動車 副社長の河合満氏の講演を紹介する。

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トヨタ自動車の河合満氏。トヨタ技能者養成所の思い出は「何事にも興味を持ち、多くの趣味(遊び)と多くの友達ができたこと」。

 日本自動車工業会は、会員企業である自動車メーカーから日本各地の大学に講演者を派遣して特別講演を行う取り組み「大学キャンパス出張授業」を例年開催している。

 この取り組みはクルマやバイクへの関心醸成や、自動車産業やモノづくりへの理解促進を目指して2013年度から実施しており、2017年度で5年目の開催となる。自動車メーカーや二輪車メーカーの経営トップが講師として登壇し、先端技術やグローバル戦略など幅広いテーマの授業を通じて、クルマ・バイクの魅力や楽しさ、日本のものづくりの重要性を伝えている。

 2017年10月11日、トヨタ自動車 副社長の河合満氏が東京大学で登壇。「トヨタのモノづくり、人づくり」をテーマに講演し、手作業の大切さや人材育成の重要性などを紹介した。

生産現場たたき上げの副社長

 河合氏は1948年愛知県豊田市生まれ。1966年にトヨタ技能者養成所(現在のトヨタ工業学園)を卒業後、本社工場に配属された。その後、鍛造部部長や本社工場副工場長などを経て2015年に専務役員に就任。2017年に工場統括の副社長に昇進した。

 河合氏が最初に配属されたのは鍛造部門だった。「1200℃に焼いた鉄の材料を鍛えるという現場だ。空調設備もなく、夏は30分もしたら汗が塩になって噴き出し、扇風機に水を落としてなんとか涼を得る環境だった。反対に冬は吹きさらし状態だ。こういう環境でも先輩は焼いた鉄をハサミ1つでいとも簡単にモノを作る。そうした姿に醍醐味(だいごみ)を感じてここまできた」(河合氏)。

 トヨタ自動車は2017年で創業80周年を迎えた。現在、従業員数は単独で約7万4000人、連結で約36万人。国内に12工場、海外では28の国と地域に53の事業体を構える世界最大規模の自動車メーカーだ。

 ここまで巨大企業に拡大したトヨタだが、激変する世界情勢と為替相場は業績に大きな影響を与えた。「とりわけ大きな問題は円高だった」(河合氏)。近年ではリーマンショック以降の円相場の上昇が著しかったが、「オイルショックや排ガス規制をはじめ、問題は過去に何度もあった。今でも自動運転技術など競争は厳しいが、過去の諸先輩のように難局を力に変えて乗り切る」と河合氏は力強く語った。

 入社して54年、生産現場一筋の会社生活を振り返り、モノづくりや人づくりについて河合氏は話し始めた。

リーマンショックから立ち直るために

 トヨタ自動車では2002年ごろから、毎年大幅な増産が続いたが、リーマンショックの影響で減産を余儀なくされた。その結果、生産設備が過剰になるなどの状況に直面し、複雑で高価な、大掛かりな設備を導入した過剰投資を反省したという。

 リーマンショック後の状況からいち早く立ち直りを見せた要因は何だったのか。「われわれは何も変わったことをやったわけではない。『TOYOTA WAY(トヨタウェイ)』と『トヨタ生産方式』の2本の柱を粛々と進めてきた結果である」(河合氏)。

 トヨタウェイのルーツはトヨタグループの創業者である豊田佐吉氏の残した「豊田綱領」(1935年制定)と、企業経営理念である「トヨタ基本理念」(1992年制定、97年改定)にある。これをもとに、トヨタの全社員がクルマづくりをする上で、分かりやすくまとめたのがトヨタウェイだ。「知恵と改善」「人間性尊重」を柱に、チャレンジ、改善、現地現物、リスペクト、チームワークの5つのキーワードで成り立っている。

 トヨタ生産方式は「自働化」「ジャスト・イン・タイム」の2つが大きなコンセプトとなっている。トヨタ生産方式が目指すものは、徹底的なムダの排除による原価低減だ。加工そのもののムダ、動作のムダ、在庫のムダ、造りすぎのムダ、運搬のムダ、手持ちのムダ、不良のムダという7つのムダを排除する。

 「モノは売れる速さで流れながら形を変えていく。売れるものを売れるスピードで1つずつ作っていく。われわれは材料をクルマにして、それをお客さまに購入してもらって初めてお金になって返ってくる。いかに早く材料・部品を製品にかえて、買っていただくかである。これをリードタイムという」(河合氏)として、ムダを徹底的に排除することにより、変動に強い強靭(きょうじん)な体質として、付加価値を高めることを目指している。

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