量子コンピュータでなぜAIは進化するのか、全ての鍵は「最適化問題」:CEATEC 2017(2/2 ページ)
「CEATEC JAPAN 2017」の自動運転技術に関するカンファレンスで、東北大学大学院 准教授の大関真之氏が登壇し、「量子アニーリングが拓く機械学習と計算技術の新時代」をテーマに講演を行った。
「D-Waveマシン」の商用利用が開始
全ての鍵は「最適化問題」であり、この最適化問題を素早く、精度よく解くためには、量子コンピュータの活用が最適となる。D-Wave Systemsは、D-Waveマシンの新機種として世界初の商用量子コンピュータ「D-Wave2000Q」を開発した。価格は十数億円という。ロッキード・マーティン(Lockheed Marti)は航空機のバグ取りの最適化問題を解くためD-Waveの初号機を購入した。また、NASAとグーグル(Google)が、機械学習への活用のため同コンピュータを共同購入したという。さらに、米国のロスアラモス国立研究所は、エネルギー環境分野のセクションが同コンピュータを活用している。
D-Waveの特徴は、2000qubitの量子力学的動作をするマシンであり、希釈冷凍機によりごく低温で動作し、圧倒的に消費電力が少ないことだ。希釈冷凍機を含む消費電力は15kWだが、演算処理部分の消費電力は2fW(フェムトワット、10のマイナス15乗ワット)となっている。この省電力という特徴がコンピュータのエネルギー問題を解決し得るわけだ。
さらに、超高速多数回の計算を実行できる。処理速度はデジタルコンピュータと比べ1億倍速いといわれている。大関氏は「日本からカナダ(のD-Wave Systems)に問題を送って、そこから問題を解く時間はわずか10μ秒だ。しかも、こちらに返ってきた解答には解のリストが並んでいる。ここがポイントで(1回だけではなく)一瞬の間に100回問題を解いている。最適化問題を解いたときには、最も良い解は当然だが、そうでない解も含めて、さまざまな解の候補を出すサンプリング技術として引用することもできる。このサンプリング技術が非常に重要で、機械学習の難しいタスクを実行するのに役立っている」と説明する。
この量子アニーリングの理論は日本の研究者が提案したこともあり、国内でも応用が進められている。例えば、機械学習への応用例として、ディープラーニングの学習過程の性能向上に用いられているようだ。量子アニーリングを利用した最適手法(Q-Adam)は、MNIST(手書き文字認識)やOlivetti(顔識別)でもAdam(Adaptive Momentum Estimation)を上回る性能がある。
自動運転に関する技術も量子コンピュータから生まれようとしている。フォルクスワーゲン(Volkswagen)は、中国での渋滞解消を目指した交通量最適化問題に取り組んでいる。走行しているクルマがどちらの道を進めば渋滞に巻き込まれないかという最適化問題をD-Waveマシンは一瞬にして解くという。その指示通りに動けば渋滞を緩和できることが、量子コンピュータを用いたシミュレーションにより分かってきた。今後は実証実験も行われる見通しだ。従来法では困難だった全体の最適化を行うことができる量子アニーリングの強みを交通量予測問題に生かすことができる。
最適化問題は世界の企業が関心を寄せており、日本でも国家プロジェクトがスタートしている。大関氏は「2017年10月1日には、東北大学で量子アニーリング研究開発室が発足した。交通量予測など社会インフラシステムに注目している。さらに東北大学としては、津波発生時やミサイルの飛翔対策などで求められる、最適な避難ルートを示すことなどにも取り組んでいる。加えて、新しい量子アニーリングのシミュレーション技術も開発している」と紹介した。
そして最後に「最適化問題を新しい技術、新しい視点によって解決することによって社会全体の最適化が進めば、自動運転・自動走行がより有効に技術として定着すると期待している」と述べている。
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