内燃機関が生き残るために、広島で研究進む「次世代燃料」:エコカー技術(4/4 ページ)
広島大学で開催された「ひろしま自動車産学官連携推進会議」、通称「ひろ自連」のシンポジウムを聴講した。ひろ自連は、広島地域の自動車産業を発展させていくための協働を目的に、広島の自動車産業と環境関連の政府関係法人、大学などの共同研究プロジェクトとして2017年2月に設立された。シンポジウムを開催するのはこれが初めてのことだ。
「SKYACTIV-D」でバイオ燃料の燃焼実験
ナンノクロロプシスから精製された燃料をマツダがスカイアクティブD(同社のディーゼルエンジン)を使って燃焼実験を行い、噴霧特性や燃焼特性などから自動車燃料としての特性を評価する。既に燃焼実験を開始しているという(クリックして拡大) 出典:広島大学
実際に広島大学の坂本研究室でナンノクロロプシスの培養環境における実験の模様を見学させてもらった。現在は温度一定で撹拌(かくはん)し続け、リンや窒素分の割合を変えたり、CO2を与えるなどで培養状態にどう変化が起こるか観察している状態らしい。これからゲノム編集の作業を進め、培養の方法や増殖率などが改善されていくことになるようだ。
既にナンノクロロプシスから精製したバイオ燃料の燃焼実験もマツダで行っており、それを元に太田研究室へゲノム情報をどう構成していくべきか、検討が進められているという。
まだ2017年度での目標値は明言できないというが、第3世代のバイオ燃料は石油由来の燃料と比べ生産コストで3〜4倍といわれている現状から、大幅に改善されることを期待したい。今後はひろ自連とも連携して、開発していくことも検討されている。
新興国の旺盛な需要により、2050年には世界の自動車保有台数は現在の2倍にまで膨れ上がると予測されている。しかし、新興国の今後の進化速度の加速ぶりまでは読み切れないのが実情だ。英国とフランスが相次いで2040年までにエンジン車の販売を禁止すると発表した。実際に時期が迫ってくるまでに、その内容は変更される可能性もあるが、むしろ世界中でEV普及の波が加速する可能性もある。
しかもエンジンが抱えている問題はCO2排出だけではない。バイオ燃料の生産コストが下がればCO2の排出量は確実に下げられるが、その他の排ガス成分が大気汚染の原因となっていることは明らかなのだ。ここはぜひ、熱効率を高めるだけでなく本当にクリーンなエンジンを生み出すような研究開発を、ひろ自連をはじめとした自動車研究機関のエンジニアに進めてほしいと思った。
エンジンという魅惑の機関を未来永劫(えいごう)に渡って利用し、クルマの走りを楽しむためには、EVに対して劣っている部分があることは許されない。そんな時代が絶対に到来するのだから。
筆者プロフィール
高根 英幸(たかね ひでゆき)
1965年生まれ。芝浦工業大学工学部機械工学科卒。輸入車専門誌の編集部を経て、現在はフリーランス。実際のメカいじりやレース参戦などによる経験からクルマや運転テクニックを語れる理系自動車ライター。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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