日系自動車メーカーの戦力逐次投入は何をもたらすのか:和田憲一郎の電動化新時代!(25)(3/3 ページ)
フランスや英国で2040年までにガソリンエンジン車・ディーゼルエンジン車の販売を禁止する方針を政府が示した。欧州自動車メーカーは反対する様子もなく、既に織り込み済みに見える。一方、日系自動車メーカーは当面1〜2車種の電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)を投入する様子見の戦略だ。あえて後手とするのは望ましいのか。
「失敗の本質」の教訓は生かされているのか
“戦力の逐次投入”でよく引き合いに出されるのは、「失敗の本質(日本軍の組織論的研究)」で指摘された「ガダルカナル作戦」である。ガダルカナル島をめぐる戦いでは、米軍の規模と戦力を甘く見て、問題の大きさを正確に把握しなかったことが敗因とされる。日本陸軍は小出しに戦力を逐次投入したものの、数度の攻撃に失敗して、戦力を著しく損耗し、最終的には同島から撤退することとなった。投入した陸軍3万2000人、島からの撤収者は約1万人で、歴史的な敗北となり、以降守勢に立たされることとなったといわれている。
今回の件を当てはめると、必ずしも同じ状況とはいえないが、まずは、欧州と中国におけるEV大反転に対して、規模感や時間軸をいま一度、情報収集すべきであろう。その上で、現在の戦略は適切なのか、はたまた見直しが必要なのか考えるべきと思われる。戦略の誤りは戦術では補えないのは自明である。
最後に、筆者の勝手な推論かもしれないが、今のような状態が続けば欧州、中国市場から次第に日系自動車メーカーは追い出されていくであろう。中国ではNEV規制強化に伴い、多額のクレジット獲得費用が発生するなど、収益がプラスからマイナスに転じていく。
さらに怖いのは、欧州でガソリンエンジン車・ディーゼルエンジン車を販売禁止とする動きが、アジアやASEAN諸国にまで波及することである。国全体を規制するかどうかは分からないが、少なくとも大気汚染で苦しむタイ バンコク、ベトナム ハノイ、インドネシア ジャカルタなど大都市では禁止の動きが進むのではなかろうか。そうなると、大量のEV・PHEVを投入できない日系自動車メーカーの代わりに、欧州・中国勢が参入し、あっという間にシェアを奪われてしまう。
もう1つ考えておくべき視点として、2025年〜2035年を想定すると、シェアリングエコノミーが著しく拡大することが挙げられる。そうなれば、EV・PHEVであっても、企業独自の味付け(加速性やハンドリング)のみならず、ユーザーフレンドリーな使い勝手の良いクルマであること、操作系の統一、収納性が良いクルマなど、パブリック的要素も大切となってくる。
また、自動運転の進展に伴い、自動車メーカーの上位に新たなサービス企業、もしくは合従連衡による新たなプレイヤーが登場してくることも考えられる。つまり、われわれが現在、ガソリンエンジン車だEVだといっているのとは別に、どのような車種をどれくらい製造・販売するかは、新たに登場するプレイヤーに委ねられしまうことも考えられる。われわれが立っているのは、EV大転換であると同時に、自動車産業大転換の境目なのではないだろうか。
筆者紹介
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。
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