ドイツの自動車大手はスタートアップとどのように付き合っているか:ドイツのコネクテッドカー開発事情(3/3 ページ)
これまでの2回では、単身でドイツに渡ってベルリンのスタートアップで働き始めた経緯や、自動車向けのアプリ開発をどのように支援していたかをご紹介しました。今回は、ベルリンでの生活で見えてきた、スタートアップと自動車業界の関わりについてお話していきます。
インキュベーションセンターの日常
スタートアップが活動する場所の例として、ハイモビリティがオフィスを構えるインキュベーションセンター「hub:raum」についてもご紹介します。hub:raumは欧州最大の電気通信事業者であるドイツテレコムが運営している起業家支援プログラムの名称でもあります。ドイツテレコムといえば数年前にソフトバンクが買収しようとしたT-mobileの親会社でもありますね。
このプログラムは、ドイツテレコムの豊富なリソースを活用し、スタートアップに対してファイナンスやメンタリングなどのサポートを提供します。欧州の12カ国で展開されています。
ベルリンのセンターのような各地域のハブとなる拠点の施設は3カ所あり、ベルリン以外にはポーランドのクラクフ、イスラエルのテルアビブに開設されています。この各ハブとなる拠点にあるコワーキングオフィスに、幾つものスタートアップが入居しています。
アクセラレーションプログラムを利用するメリットとしては、社外とのネットワークを持てるというのが非常に大きいです。メンター達とのネットワークはもちろん、運営しているのがドイツテレコムということもあり自動車メーカーや電機メーカーなどとつながりやすいのです。また、入居している他のスタートアップもIoTに関連しているところが多いため、情報交換やネットワーキングがしやすいという利便性があります。
インキュベーションセンターはとてもカジュアルな雰囲気で、先日もシリコンバレーの500 Startupsのメンター達が訪問してきた際には、バーベキューをしました。デメリットとしては、オフィスの利用期間が1年と決まっていること、メンター陣が1社にかけられる時間が限られている点だと感じています。
従来の自動車業界は自動車メーカーが自動車部品メーカーを垂直統合的に支配してきたため、スタートアップの参入は非常に困難だったはずです。しかし、自動運転車の開発が加速するにつれて、IT業界のスタートアップとの協業をより重視する姿勢を反映してか、ここ数年で自動車メーカーはスタートアップへの出資や買収を積極的に行っています。
シリコンバレーのようなスタートアップが多く集まる地域や大学の近隣に自動車メーカーが研究拠点を構える例が増えている動きからも、自動車業界の外から発信される情報にいち早くアクセスしようとしているのが垣間見えます。
パラダイムシフトは確実に始まっている
こうした環境に身を置いていると、自動車業界では大きなパラダイムシフトが起きつつあり、確実に始まっていることを痛感します。
既存の自動車産業のプレーヤーと、新規参入しているIT産業のプレーヤーとでは、自動車の位置付けが異なることも実感しました。自動車メーカーの中心は自動車で、クルマをクラウドにつなげ、クルマの情報を利用して何かをするといった具合です。それに対してIT企業の中心は人々の生活です。家、会社、飛行機、スマートフォン、そして自動車も横並びで扱われます。
フィーチャーフォンがスマートフォンにシフトし、私たちの日々の生活が一変したように、商品として自動車に求められる価値が変わったため、自動車もプロダクトとして進化することが求められています。さらに、新しいサービスが生まれ、インフラやエネルギーが変わり、「自動車」のみならず鉄道やバスも含めた「移動」自体の価値から再定義されていくことになるでしょう。
そこで重要になってくるのは、誰のためにやるのか、人の行動をどう変えたいのか、都市をどう変えたいのかという広い視点だと思います。自動車というプロダクトだけではなく、仕事やレジャーの在り方などあらゆるものが影響を受けていきます。
筆者プロフィール
別府 多久哉(べっぷ たくや)
リクルートテクノロジーズ ITマネジメント統括部 プロダクトエンジニアリング部所属
2014年新卒入社。社内研究機関であるATL(Advanced Technology Lab)を経て、現在はリクルートグループのビジネス高速化に向け、DevOps組織の推進に取り組んでいる。
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