ロータリー、Zoom-ZoomからSKYACTIVへ、世界シェア2%のマツダが選んだ道:MF-Tokyo 2017 記念講演(2/2 ページ)
鍛圧機械や塑性加工技術の総合展示会「MF-Tokyo 2017 第5回プレス・板金・フォーミング展」の開幕記念講演にマツダ 取締役専務執行役員の菖蒲田清孝氏が登壇。「マツダのブランド戦略とモノ造り革新について」をテーマに同社の商品づくりのコンセプトと技術革新へのこだわりなどを紹介した。
始まったSKYACTIVテクノロジーの開発
内燃機関の技術を磨く余地を当時はどう見ていたのか。「熱量のうち仕事として取り出しているのは30%にすぎなかった。まだ改善の余地がある」(菖蒲田氏)と考え、究極のエネルギー効率を求めて、「SKYACTIV ENGINE」の開発に取り組んだ。さらに、世界一の機能と走る喜びを共に実現するため、「クルマの基本性能を一から見直し、革新する」(菖蒲田氏)という取り組み「SKYACTIV テクノロジー」がエンジン以外でも展開された。
加えて、クルマを文化として育てていくためにデザインも見直した。生命感あふれ、心ときめかせる動き「魂動(こどう)」をテーマに商品開発を進め、「CX-5」「アテンザ」「アクセラ」「デミオ」「ロードスター」などのモデルをラインアップしている。
マツダは「世界中の自動車メーカーが驚くような革新的な内燃機関を搭載したクルマを開発する」という目標の下でSKYACTIV テクノロジーを導入した。しかし「従来のモノづくりの延長では、実現は不可能であることから、モノづくりの方法にも革新を取り入れた」(菖蒲田氏)という。
モノづくり革新では、商品競争力を高める多様性とボリューム効率を高める共通性というトレードオフを打破し、技術革新を伴うさまざまな商品を開発・生産しながら、単独車種に近いビジネス効率を目指した。
これを実現するため「コモンアーキテクチャ構想」と「フレキシブル生産構想」の2つの活動を始めた。2006年の時点から2011〜2015年に発売するモデルを想定し、全てのモデルに展開できる構造や工程を一括で企画した。この間、新製品を発売できなかったが、ターゲットとする時期を見据えた製品開発に取り組んだという。
コモンアーキテクチャ構想は、エンジンを例にとると排気量が異なっても固定して考える部分を共通の構造にするもの。フレキシブル生産構想は、高効率に商品力の高い製品を提供するため、トランスファーマシンに頼らず工程集約や設備のフレキシブル化を進める取り組みだ。
これからのマツダのモノづくり革新
マツダにおけるモノづくり革新の今後の取り組みについては、「これまでは生産・開発という2つを軸に取り組んできたが、今後は調達・物流・品質を加えた5軸でモノづくりの革新を進めていく。開発と生産、調達まで一気通貫にしたモデルを事前に検証してプロセスを構築し、現物を作る前に狙いの商品性能やコストを実現できていることを確認しながら、同時にグローバルの拠点でモノづくりを展開していけるようにする」(菖蒲田氏)。
デジタル技術による高品質化と効率化の推進「MDI(Mazda Digital Innovation)」もマツダが長年続けている取り組みの1つだ。1996年からMDIのフェーズ1としてCAD/CAM/CAE技術を駆使した商品開発プロセスの革新に取り組んできた。
今後はMDIのフェーズ2としてモノづくりのプロセスをサプライチェーンのプロセスや顧客体験のプロセスへと機能統合ができる製品開発を進めていく。
人づくりについても、技術系の新入社員は開発部門を一度経験して生産技術部門へ戻ってくるなど、担当領域以外の周辺領域にも精通した知識や人間関係を身に付けるように取り組みも行っている。
今後も目指す姿はブレずにより効率の高い内燃機関を開発し、その上で電動化技術を向上、厳しくなるCO2削減目標を達成していく。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- マツダの次世代SKYACTIVは「目標を上回る仕上がり」、2017年秋にも発表
マツダが2021年までの新技術投入計画を明らかにした。2018年度に第2世代となる「SKYACTIVエンジン」とマイルドハイブリッドシステムを採用する。各国の環境規制に対応するため電動化を進め、2019年には電気自動車を、2021年にはプラグインハイブリッド車を投入する計画だ。 - 「SKYACTIVエンジン」は電気自動車と同等のCO2排出量を目指す
好調なマツダを支える柱の1つ「SKYACTIVエンジン」。その開発を主導した同社常務執行役員の人見光夫氏が、サイバネットシステムの設立30周年記念イベントで講演。マツダが業績不振にあえぐ中での開発取り組みの他、今後のSKYACTIVエンジンの開発目標や、燃費規制に対する考え方などについて語った。その講演内容をほぼ全再録する。 - 形にならぬ設計者の思いを可視化、マツダCX-5を洗練させた設計探査
多目的最適化は自動で最適な設計解を出してくれる――そういった思い込みはないだろうか。実際、あくまで設計支援の技術だが、その効果は幅広い。マツダの「モノ造り革新」の先陣を切ったCX-5の設計開発において最適化が採用されている。同社に最適化を最大限活用する方法や得られる効果、課題について聞いた。 - マツダの走りを陰で支える、高機能樹脂材料の開発秘話
マツダと聞くと「SKYACTIV」の名で知られるディーゼルエンジンやガソリンエンジンの燃焼技術、シャーシ技術や魂動デザインがイメージされる。SKYACTIVテクノロジーを実現する上でも重要な材料の開発技術にも力を入れている。とりわけ樹脂に関しては、軽量化やエコロジーの観点からも重要だ。 - ホンダとマツダが語った「“使えるクラウドCAE”実現に必要なこと」
日本自動車工業会のCAEクラウド調査タスクのチームは、MSCのユーザーイベントにおいて、クラウドCAEに関する調査の経過報告を行った。クラウドプロバイダーやソフトウェアベンダーとのディスカッションを重ねるとともに、セキュリティの調査やベンチマークなどを実施してきたという。 - マツダの「モノづくり革新」を推し進めるTPM活動の神髄とは
本連載「いまさら聞けないTPM」では、TPM(Total Productive Maintenance)とは何か、そして実際に成果を得るためにどういうことに取り組めばいいかという点を解説する。最終回の第7回は、TPM活動の実践事例として、2015年3月末までマツダの常務執行役員を務め、「モノづくり革新」の推進に貢献した中野雅文氏の寄稿をお届けする。