200年謎だったガラスとシリコーンの基本構造を世界初解明、高機能化に道筋:材料技術(2/2 ページ)
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と産業技術総合研究所(AIST)など5者は、ガラスやシリコーンの基本単位構造であるオルトケイ酸の結晶の作製に成功したと発表。この研究成果は、ケイ素化学における200年の謎を解明するとともに、ケイ素材料の高機能、高性能化に道筋を付けるものだ。
水を用いない反応によりオルトケイ酸の収率は96%を達成
今回の研究は、2014〜2021年度にかけて実施されているNEDOプロジェクト「有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発」で実施されている。研究主体となるAISTは、有機化学的手法を無機化合物のオルトケイ酸の合成に応用することで、不安定なオルトケイ酸を安定的に合成するとともに、その構造解析に成功した。
まず、従来法による合成でオルトケイ酸が不安定で単離できない理由は、加水分解行程における水が大きく影響していると予測し、水を用いずにオルトケイ酸を合成する反応の開発を検討。パラジウムカーボン触媒(Pd/C)を用い、アミド溶媒(アミド結合(N-C=O)を有する有機溶媒)中で4つのベンジルオキシ基(-OCH2Ph)を有するケイ素化合物を水素化分解する手法を開発することで、オルトケイ酸を96%という高い収率で合成することができた。当初の予測通り、今回開発した水を用いない反応では、オルトケイ酸が極めて安定的に存在できることが分かった。
合成したオルトケイ酸の分子構造を解明するには、粉末ではなく一定以上の大きさの単結晶を得る必要がある。そこで、テトラブチルアンモニウム塩(nBu4NX、X=Cl、Br)を反応溶液に加えることで結晶化を促進させることに成功した。この単結晶について、X線結晶構造解析と中性子結晶構造解析を行うことで、分子構造が明らかになった。オルトケイ酸の構造は正四面体構造であり、Si-Oの平均結合長や、O-Si-Oの平均結合角、O-Hの平均結合長なども測定できた。
合成したオルトケイ酸は単量体だが、オルトケイ酸の縮合過程では2量体、3量体といったオリゴマーが生成すると考えられている。そこで、単量体を合成したのと同じ反応工程を利用することにより、2量体、環状3量体、環状4量体の合成にも成功し、X線結晶構造解析で構造も明らかにした。
オルトケイ酸とそのオリゴマーを安定的に合成できるようになったことから、これらをビルディングブロックとして用いた高機能、高性能シリコーン材料の開発や革新的なシリカ製造プロセスの開発がにつなげられるという。また、オルトケイ酸とオリゴマーの大量合成に向けた取り組みを進めるとともに、構造を制御したシロキサン化合物の製造プロセスの開発も検討するとしている。
なお、今回の研究成果の詳細は、2017年7月26日(現地時間)に英国の学術誌「Nature Communications」に掲載された。
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