「タクシー業界も自動運転受け入れて」、日の丸交通とZMPが無人運転に乗り出す:自動運転技術
ZMPと日の丸交通は、無人運転タクシーの実用化に向けた研究会を立ち上げた。2020年に本格営業を開始する目標だ。営業スタートまでに法規制や料金体系、営業エリアについて議論を進める。両社以外にも、タクシー業界に幅広く参加を呼び掛けていく。
ZMPと日の丸交通は2017年7月11日、東京都内で会見を開き、無人運転タクシーの実用化に向けた研究会を立ち上げたと発表した。2020年に本格営業を開始する目標だ。営業スタートまでに法規制や料金体系、営業エリアについて議論を進める。両社以外にも、タクシー業界に幅広く参加を呼び掛けていく。また、遠隔操作による無人運転の公道試験も予定している。
タクシーを乗り継ぐ?
両社は研究会発足に先立ち、無人運転タクシーとドライバーが運転するタクシー(以下、有人タクシー)の両方を配車できるアプリの開発で協業を始めた。配車アプリはまずドライバーが運転するタクシーのみに対応してから、無人運転タクシーも対象に加える。
無人運転タクシーと有人タクシーを配車アプリの対象とするのは、2つの乗り換えを想定することによる。両社は無人運転タクシーと有人タクシーで走行エリアを補完しあい、有人タクシーでは配車しても効率や収益性が上がらない地域を無人運転タクシーでカバーしたい考えだ。そのため、地域ごとに発生する乗り換えを快適に行う配車アプリを開発する。
また、完全自動運転はレベルの定義によって走行できる区域が限られるのも、乗り換えが発生する理由だ。これまでレベル4とされていた完全自動運転は、2016年に米国の自動車技術会がレベル4とレベル5に分割した。レベル4は自動運転が作動できる条件が限定的で、走行できる区域が限られるが、レベル5ではどのような状況でも走行することになる。両社の研究会で実用化を目指すのはレベル4の自動運転だ。
ZMP 社長の谷口恒氏はレベル4の自動運転に強いこだわりを見せ、「タクシー業界にはレベル2〜3の推進派がいて、隙あらばレベル4の実用化を遅らせようとする。レベル4を目指していかないと進化を止めることになるし、われわれの計画が遅れてもUber(ウーバー)など海外勢が入ってくる。発起人としてリスクをとってでも進めていく」とコメントした。
両社は、協業の第1弾として、ベテランのタクシードライバーによる自動運転車の運転の評価や、ベテランドライバーの運転データの収集を行っている。ベテランが持つ細かな運転のノウハウや、譲り合って運転するためのコツについてもエンジニアにフィードバックし、自動運転車の制御に応用していく。谷口氏は譲り合うことで安全性も高められるとしている。
無人運転タクシーとして運用する車両について谷口氏は、既存の車両をZMPが改造するのではなく、自動車メーカーに委託したい考えを示した。「現在、自動車メーカーに相談中」(谷口氏)だという。
自動運転はドライバーを否定するものではない
会見に登壇した日の丸交通 社長の富田和孝氏は、自動運転技術がタクシードライバーの存在を脅かすものではないこと、海外のライドシェアサービスに対抗するためにもタクシー業界が自動運転技術を積極的に取り入れる必要があると強調して説明した。
都内のタクシーの稼働率は減少が続いており、さらに、人手不足や、ドライバーの高齢化による事故のリスク、稼働率や収益が出しにくい過疎地での経営の継続といった課題もある。「こうした課題を解決できなければ、海外のライドシェア業者を受け入れなければならなくなる。自動運転車が調整弁となって人手不足を補っていきたい」(富田氏)
また、課題を抱える従来のタクシーに対し、海外ではライドシェアサービスが一般的な交通手段として認知されている現状にも触れ、富田氏は「日本では白タクに頼ることなく、プロドライバーによって安心・安全を提供していきたい。また、タクシーは有人運転でも無人運転でもタクシー会社が運用できるように法整備を訴えていく」と述べた。
富田氏のコメントからは、タクシー業界が自動運転技術の普及に対して強い懸念を抱えていることが伺える。一方で、物流業界はトラックの隊列走行で自動運転技術を積極的に活用しようとしており、同じように人手不足に悩んでいても姿勢が大きく異なる。ZMPと日の丸交通の研究会は、タクシー業界をどのように巻き込んでいくのだろうか
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