「つながる産業」は進撃の合図か、経産省が考える日系製造業の現在地:製造業×IoT キーマンインタビュー(3/3 ページ)
第4次産業革命といわれるIoTなどを活用した産業変革が加速している。この新たな波を捉えるべく各国政府の取り組みが進む。日本でも2017年3月に「Connected Industries」を発表。さらにドイツとの間では「ハノーバー宣言」で連携強化を図る。これらの動きに関わってきた経済産業省 製造産業局局長の糟谷敏秀氏に日本の製造業の現在地を聞いた。
「Connected Industries」実現への2つの課題
MONOist 「Connected Industries」を推進する中で現在課題だと考えていることはありますか。
糟谷氏 1つは人の力とデジタル技術のマッチングにあると考えている。Society 5.0にしてもConnected Industriesにしても、特徴は人間本位であるということだ。日本の強みは現場力にありその源泉として現場を構成する「人」の存在がある。その強みを残していかなければ、世界に対する日本の競争力は維持できない。しかし、デジタル化技術を使い、全てにおいて無駄を省き、効率化を進められなければ、スピードという面で競争に負ける。デジタル化を前提に人の力をどう組み込んで高めていけるのかという点がポイントになる。
「匠の技」をデジタル化することで技能継承は容易になり、短い時間で習得できるようになる。他方、この「匠の技」の価値をどうやってさらに高めることができるのか、という点が挑戦的な領域になる。
また、デジタル化すると必ず流出の危険が生まれる。セキュリティなどで守るということは当然ベースとなるが、それ以上に何を自社の競争領域と位置付けるのかという社内のリソースの切り分けが必要となる。従来の日本企業は全て固有の「守る領域」として自前主義を固めてきた。しかし、それではスピードも出せず普及もさせられない。オープン化が絶対に必要になる。しかし全てオープン化したら勝負できない。どこをオープン化してブラックボックス化するのかという経営判断が必要だ。守る部分を決められれば、そこはさまざまな技術で守るという考え方やデジタル化をそもそもしないという考え方もある。さまざまな選択肢が生まれる。
製造業のサービス化を実現するのは経営力
MONOist 2つ目の課題は何ですか。
糟谷氏 2つ目の課題が製造業のサービス化によるビジネスモデル構築である。IoTにより製造業にも「モノ」から「コト」へのシフトが進み、製造業にもサービス業の要素が加えていく必要が生まれている。製造業がサービス化を進めるべきなのか疑問視する声もあるが、モノを作らないと提供できないサービスもある。例えば、製造装置や工作機械などの加工品質などをサービスとして提供することは、製造業でなければできない。また、既に市場が生まれ始めているのが、予兆保全などメンテナンスの領域である。現状ではメンテナンス領域が先行しているが、最適化やもっとさまざまなビジネスモデルが描けるはずだ。
この領域はまさに経営そのものだが、調査での「データの収集・活用の戦略・計画を手動する部門」という回答では「製造部門」が44.8%と最も多く、「経営者・経営戦略部門」が29.6%と3割に満たないことから見ても、まだまだ日本のIoT活用は現場主導で進んでおり、新たなビジネスモデルによる売上高拡大につなげられるか不安が残る。こうした経営層の取り組みを活性化させていく必要がある。
日本のIoTが効率化に偏っているのもこうした、現場主導の動きであることが要因となっているように思う。コストダウンの動きと新たなビジネスモデルで売上高を拡大していく動きは、両立はするが、延長線上にあるものではない。新たなビジネスモデルの創出には別の発想で取り組んでいく必要がある。経営領域でも現場と同様「まずやってみる」の精神で、小さな成功を積み上げていくことが必要だ。その意味では「失敗を認めない文化」を経営レベルでも変えていく必要がある。製品のライフサイクルが短くなればなるほど後追いで勝てる領域は少なくなっている。そうなると自ら新たな価値を常に生み出し続ける取り組みが必要になる。
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