インダストリー4.0で深まる日独連携、残された“課題”の現在地(後編):ハノーバーメッセ2017(2/2 ページ)
ハノーバーメッセ2017では、第11回となる日独経済フォーラムが開催されたが、両国共通の大きな課題が「中小企業のIoT化」である。後編では、中堅中小企業のインダストリー4.0への取り組みの現状を紹介したパネルディスカッションの内容をお届けする。
ドイツでも根強い抵抗の声
これらの中小企業がIoT化に踏み切れない課題を解消するために進んできたのが、ドイツの「インダストリー4.0 コンピテンスセンター」であり、日本の「スマートものづくり応援隊」である。これらは中小企業がITおよびIoTを使いこなすために身近に相談したり、実証したりできる施設である。
デンケナー氏は「地域ごとにコンピテンスセンターを作り、中小企業が身近な拠点でさまざまな学習や実証ができるように進めている。学習用の実証工場なども用意している。これはショーケースプロジェクトのようなものだ。企業の実例でどうやってデジタル化を進めるのかを見てもらっている」と取り組みを紹介する。
日本ではスマートものづくり応援隊の他「日本オリジナルの取り組みとして、中小企業で使えるIoTツールを集めて公開するスマートものづくり応援ツールを展開している。ここで集まったツールは非常にユニークなものが多かった。スマートフォンをセンサーとして使ったり、カメラとして使ったりするなど、市販品を組み合わせて低価格で便利なツールを作り上げる。多くの人が一般的に使っているものが標準になっていく世界が1つのIoTの姿だと感じた」と久保氏は述べている。
一方、IoT化を実際に進めたMurrelektronikでは「最初はほとんどの社員がネガティブな反応だった。しかし早い時期からさまざまな取り組みを進め、インダストリー4.0のさまざまなメリットを見てもらい、体験できる環境を作った。ショップフロアとオフィスフロアを結ぶ価値、そしてそれらを前提として実現する予防保全の価値など、それらのメリットを体験していくうちに、多くのスタッフにもそれが伝わっていった」と浸透への取り組みを紹介した。
中小企業にこそ価値のあるインダストリー4.0
日本でもドイツでも中小企業はインダストリー4.0に消極的だといえるが、島田氏は「インダストリー4.0は中小企業にこそ価値がある」と主張する。
「ドイツも日本も中小企業がGDPの大きな比率を占めているのは変わらないが、輸出についてはドイツは30%が中小企業だが、日本は8%しか担っていない。国内および国内大手メーカーとの取引に特化する形で今まできたという状況が見える。しかし、日本の中小企業の技術を見ると世界の他の地域でも使えるものがたくさんある。今までは大企業のサプライヤーとして使われてきたが、今後、インダストリー4.0などで標準化が進んでくれば、こうした土台を活用して世界に打ち出すことができるようになる。今のデジタル化の動きは恐れるべき対象ではなく、チャンスだと見るべきだ」と島田氏は強調している。
ただ、一方でこうした成果はすぐには出るものではない。島田氏は「インダストリー4.0は長い旅のようなもの。単純に何かを導入してすぐに結果の出るものではない。私は提案する時に『すぐに導入するとか考えない方が良い』と顧客には伝えている。まずは自社で立ち止まって、やらなければいけないけど何かが障害となってやっていなかったものなどを考えて、それに対しどのように取り組んでいくのかや、新しい技術を使えば解決できるのかなどの話し合いを進めるところから始めるべきだと考えている。『とにかく導入しよう』ということだと必ずどこかで挫折することになる」と考えを述べた。
中小企業のIoT活用については、ドイツ連邦政府が積極的にさまざまな施策を打ち出し、中小企業のマインドも変わってきているようにも見えていたが、現実的にはそうではない状況が垣間見える。まだまだ意識の変革に取り組みながら、実質的なメリットを示していくフェーズである。そういう意味では日本の置かれている状況と変わらない。ただ、将来的に遅かれ早かれいずれはITやIoTが製造業のインフラとしてあらゆる工程に入っていくことになる。これらを考えると世界が同じような現段階でいち早くIoT化を進め、中小企業としての成功事例を生み出すことができれば、世界のさまざまな企業に先んじることができる。まさにインダストリー4.0が中小企業にとってこそチャンスといえるのではないだろうか。
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