トヨタとNVIDIAの協業から見えてきた、ボッシュとコンチネンタルの戦争:NVIDIA GTC 2017 レポート(4/4 ページ)
NVIDIAは開発者会議「GTC(GPU Technology Conference)」の中でトヨタ自動車との協業を発表した。日系自動車メーカーの技術関係者は「まさか!?」「意外だ」と驚きを隠せない。これから起こるサプライチェーンの大変革とは。
疑問が残る、NVIDIAとティア1、自動車メーカーの関係
GTC3日目の17時から、自動車分野に関するプレスブリーフィングがあった。その中で、NVIDIA側はDRIVE PX2に関する契約体系について、大きく2系統あると強調した。
1つは、今回発表のあったトヨタ自動車や、既にDRIVE PX2を採用しているアウディやVolvo Cars(ボルボ)など自動車メーカーに対して直接契約し、基本的な開発を共同で進めた上で、DRIVE PX2を量産車に搭載する際に、自動車メーカー側がハードウェアの製作者としてのティア1サプライヤーを自由に選択すること。
もう1つが、ボッシュから自動車メーカー各社に部品提供することだ。
このどちらを主流としたいのかについては、NVIDIAの回答は歯切れが悪かった。実は、GTCの前週にも、筆者は同じような“歯切れの悪い回答”を聞いた。それは、米国Intel(インテル)からだ。インテルはサンノゼ市内の同社に、Advanced Vehicle Lab in Sillicon Valleyをオープンし、それに伴いメディア向けにAutonomous Driving Workshopを実施した。
その際、インテルがこれから推進する自動運転技術の提供方法は2系統あると説明したのだ。1つは、BMWと、現在買収に向けた最終準備段階に入っているイスラエルのMobileyeと共同開発する“自動運転向けのプラットフォーム”を、自動車メーカー各社に対してインテルが提供する方法。もう1つは、米国Delphi Automotive(デルファイ)を通じて自動車メーカー各社に提供する方法だ。
こうした2系統戦略は、NVIDIAと同じだ。ただし、インテルの戦略の中ではっきりとした立ち位置が分からないのが、Continetal(コンチネンタル)だ。
見えてきた代理戦争
インテルは地図情報を提供する世界最大手のドイツHEREの発行済み株式の15%を取得しており、Daimler、BMW、Volkswagen(VW)グループの3社に次ぐ大株主である。このHEREとコンチネンタルは走行データをクラウドで蓄積して解析する「eホライズン」を通じて連携し、HEREのHD Live Mapの事業化を進めてきた。それをいち早く実装したのがBMWだ。こうした各社の関係を整理すれば、インテルの自動運転開発の裏には、コンチネンタルの存在が色濃い。
つまり、NVIDIAとインテルの2社による、GPUやCPUなど演算装置を主体とした自動運転関連のハードウェア・ソフトウェアのデファクトスタンダート争いは、ボッシュとコンチネンタルの代理戦争である。
その争いによって、現行の垂直統合型による自動車産業界のサプライチェーンは史上空前の大変革に直面している。この大流は今後、短期間にさらに大きくなることは明らかだ。なぜならば、NVIDIAもインテルも目指す方向性は、大変革によってもたらされる巨額の利益だからだ。
こうした、地殻変動を自ら演出するような“ビジネスありき”で、技術論を後から追いかけるような戦法は、日本企業にとって不得意分野である。
2020年までに……、2025年までに……といった自動運転の技術開発のロードマップは、シリコンバレーのITハードウェア・ソフトウェア大手によって、さらにはそれらの後ろで巧妙に糸を引くドイツの大手サプライヤーによって、今後あっさり塗り替えされてしまう危険性が極めて高い。
日系ティア1サプライヤーの関係者におかれては、自らが“崖っぷち”にいるという強い危機感を社内全体で共有していただきたい。
筆者プロフィール
桃田 健史(ももた けんじ)
自動車産業ジャーナリスト。1962年東京生まれ。欧米先進国、新興国など世界各地で取材活動を行う。日経BP社、ダイヤモンド社などで自動車産業、自動車技術についての連載記事、自動車関連媒体で各種連載記事を執筆。またインディカーなどのレース参戦経験を基に日本テレビなどで自動車レース番組の解説も行う。近刊は「IoTで激変するクルマの未来」。
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