「成熟」と「政府による制御」が混在する中国の自動車市場、新たなる船出:上海モーターショー 2017 レポート(3/3 ページ)
じっくり見るには丸2日間はかかる上海モーターショーの広い会場。展示を一巡して感じたのは「パッとしない。活力が感じられない」ということだった。「売らんがため」の量産仕様の展示や、規制を踏まえて各社が注力するEVやPHEVから見えてきたものとは。
自動運転、コネクテッドカー、FCVは水面下へ
もう1つ、Controlled(制御)について、会場内で印象に残ったことがある。自動運転やコネクテッドカー、そして燃料電池車(FCV)といった分野の展示についてだ。
自動運転について、これまで各地のショーで車体の上部に大型のライダーを装着した実験車両が展示されることが多かったが、今回はそうした車両は皆無だった。その代わりとして、VR(仮想現実)のヘッドマウントディスプレイを装着して自動運転を疑似体験するアトラクションを数社が行うにとどまった。
コネクテッドカーについても、専用の上映スペースでV2Xを使った近未来社会を上映するアトラクションが1カ所あっただけ。スマートフォンと車載機との連携などについては、トヨタ自動車のレクサスブランドがカスタマーサービスをパネルで紹介していたが、決して目立つ展示ではなかった。また、部品メーカーのブースでも、自動運転やコネクテッドカーに関わる展示は、コンチネンタルなどの一部だけで、あまり目立たなかった。
そして、FCVは韓国の現代自動車がコンセプトモデル、FCスタック、そして水素タンクの実機を展示したのみで、その他にFCV関連の出展はなかった。また、トヨタ自動車は今回のショーのタイミングで、FCV「MIRAI」を活用した中国国内での実証試験を始めることを発表した。これまで、中国での電動車については「カローラ」と「カローラレビン」のハイブリッド車の販売比率を高めることに注力するとして、EVやFCVの市場導入について具体的な計画を公表してこなかった。
こうした、トヨタ自動車を含めたFCV戦略の変更や、中国地場メーカーによる自動運転に関する展示の排除となった理由も、中国政府による2030年までの次世代自動車の研究開発に関する施策の影響によるものだ。
この中で、中国がこれまで次世代車の研究開発の中核として位置付けてきた「863計画」を見直し、自動運転やFCVなど研究領域を新たに7つに分類する新体制を敷くとしている。863計画は、故鄧小平氏が1986年3月に設立した政府機関。各自動車メーカーや中国自動車技術研究センター(CATRC)と情報共有し、中国自動車産業の発展に寄与してきた。だが、自動車とIT産業界との関わりが強まり、またライドシェアリングなど新たなるサービス領域が急拡大していることを受け、中国政府として自動車産業を育成する方策を変更したといえる。
今回、オート上海で自動運転やコネクテッドカー、FCVなどの先端技術の展示がほとんどなかったのは、こうした領域での研究開発に対して、中国政府の主導力が強まっていることを示しているのだと思う。
2000年代に経済の民主化が一気に進み、BRICsと呼ばれた新興国の雄として急速な経済発展を遂げた中国。日本や米国を抜き、自動車の製造台数と販売台数で世界一にもなった。そして今、世界市場における自動車産業界の大変革を受け、中国自動車産業界はさらなる変化を目指して新たなる道を歩み始めた。
筆者プロフィール
桃田 健史(ももた けんじ)
自動車産業ジャーナリスト。1962年東京生まれ。欧米先進国、新興国など世界各地で取材活動を行う。日経BP社、ダイヤモンド社などで自動車産業、自動車技術についての連載記事、自動車関連媒体で各種連載記事を執筆。またインディカーなどのレース参戦経験を基に日本テレビなどで自動車レース番組の解説も行う。近刊は「IoTで激変するクルマの未来」。
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