インテルはAIで勝ち残れるのか、脳科学研究から生まれた「Crest」に賭ける:組み込み開発 インタビュー
世界最大の半導体企業であるインテルだが、AIやディープラーニングに限ればその存在感は大きいとはいえない。同社は2017年3月にAI製品を開発するAIPGを発足させるなど、AI関連の取り組みを強化している。2017年3月に発足したAI製品事業部の副社長兼CTOを務めるアミール・コスロシャヒ氏に話を聞いた。
IoT(モノのインターネット)とともに、IoTからビッグデータを分析する技術であるAI(人工知能)への注目が高まっている。そして、AIの進化をけん引しているのがディープラーニングだ。
ディープラーニングの研究開発の進展に対して大きく貢献したとされるのがNVIDIAのGPUである。実際に、現在のAIやディープラーニングでは、NVIDIAのGPUを用いることはほぼ前提になっているといっても過言ではない。
一方、世界最大の半導体企業であるインテル(Intel)だが、AIやディープラーニングに限ればその存在感は大きいとはいえない。しかし、現在進行形のAIトレンドをキャッチアップすべく2016年に入ってからさまざまな施策を打ち出した(関連記事:インテルアーキテクチャもディープラーニングに有効、「GPUが最適は先入観」)。
それらの施策の中でも最も重要とされているのが、2016年8月に行ったAIベンチャーのNervana Systemsの買収になるだろう。2017年以降の製品ラインアップに加わったディープラーニング向けプロセッサ「Crest」は、Nervana Systemsの技術がベースになっている。
インテルは2017年4月7日、東京都内でAIに関するプライベートイベント「インテル AI Day」を開催した。同イベントに合わせて、Nervana SystemsのCTOを務めた後、買収後もそのままインテルに移籍し、現在は2017年3月に発足したArtificial Intelligence Products Group(AIPG、AI製品事業部)の副社長兼CTOを務めるアミール・コスロシャヒ(Amir Khosrowshahi)氏が講演を行った。
コスロシャヒ氏は、インテル AI Dayの講演で自身のキャリアを説明。カリフォルニア大学バークレー校で脳科学を専攻しており、脳にチップを組み込み、脳から出てくる情報を記録して、脳の仕組みを知る研究をしていたという。その研究に最適なハードウェアの開発が、Nervana Systemsの出発点になっているのだ。
MONOist編集部はコスロシャヒ氏にインタビューする機会を得た。半導体最大手のインテルに在籍しながら、半導体関連のキャリアを持たず、AI製品の開発を統括する同氏に、AIの研究開発に携わるようになった理由、GPUに対するCrestの強み、Crestの組み込み機器への適用可能性などについて聞いた。
MONOist 脳科学の研究からコンピュータサイエンス分野に移った理由は何ですか。
コスロシャヒ氏 大学では、主に視覚に関わる脳の仕組みについて研究していた。現在携わっているAI関連の研究開発は脳科学と表裏一体であり、脳の働きとディープラーニングやAIは密接に関連している。人工頭脳、AIによって問題解決したいという考え方は変わっていない。
MONOist インテルではディープラーニング向けプロセッサとして「Crest」を開発中です。その一方で、現時点でディープラーニングに広く用いられているのはNVIDIA製のGPUです。CrestはGPUに対してどのような優位性がありますか。
コスロシャヒ氏 GPUはその名の通りグラフィックスを処理するためのプロセッサアーキテクチャだ。NVIDIAはその回路をディープラーニングに活用しているが、あくまでグラフィックスプロセッサにすぎない。
Crestはディープラーニング向けに開発されたアーキテクチャを基にしたプロセッサだ。GPUは別途キャッシュメモリが必要だが、Crestはオンチップメモリなので外付けのキャッシュメモリは不要だ。プロセッサは演算に集中できるので、コンピューティングパワーを最大化できる。
MONOist Crestの投入計画は。
コスロシャヒ氏 アーリーアダプター向けに、データセンターで用いる「Lake Crest」を2017年に提供するのが最初になるだろう。Lake Crestの次世代品になる「Spring Crest」は2018年以降を予定している。
MONOist 現時点でCrestはデータセンター向けの製品ですが、組み込み機器にも利用できるようにする計画はありますか。
コスロシャヒ氏 Lake Crestの微細化を進めたチップをエッジデバイスに組み込んでいく可能性はあるが時期的なことについては言えない。脳科学やコンピュータサイエンスを専門とする研究者である私から、微細化の詳細を把握した上で、チップへの適用の可能性を説明することは難しい。
MONOist 開発中のAIチップとして、脳の仕組みを模倣したIBMの「TrueNorth」などがあります。こういった技術をどう評価していますか。
コスロシャヒ氏 そういった、ニューロモーフィックプロセッサやスパイキングプロセッサと呼ばれるカスタムチップは極めて興味深い。CPU、GPU、FPGA、そしてCrestとは別次元の技術であり、超えていく可能性もある。別次元である以上、今ある技術と比較するべきでもないが。
MONOist AIはさまざまな用途への適用が見込まれています。注目しているAIアプリケーションはありますか。
コスロシャヒ氏 最初に挙げたいのは“科学的挑戦”だろうか。例えばヒッグス粒子の研究を進めるのに使えれば面白い。他には、天候予測や材料科学などがある。あと、人間の仕事が市場を生み出すプロセス、例えば金融やトレーディングに適用するのも興味深い。
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