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「ライドシェア」はタクシーの敵? 普及でクルマは売れなくなるのかいまさら聞けないクルマのあの話(3)(4/4 ページ)

聞いたことはあるけれど、正確に知っているかといわれると自信がない……。クルマに関する“いまさら聞けないあの話”を識者が解説します。第3回は、世界各地で普及が進んでいるものの、日本国内では利便性を実感しにくい「ライドシェア」です。

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必ずしも「タクシー対ライドシェア」ではない

 ただし、ライドシェア乗り場では、自分の行きたい方向に向かう車両が来るまで待つ必要があるのがネックです。通常のタクシー乗り場であれば車両が来るたびに順番に乗っていけるので、タクシーの方が便利に感じられるという場面もあるでしょう。

 また日本ではあまりなじみがありませんが、海外ではタクシー乗り場で多くの人が待っている場合などに「私は○○へ行く。同じ方向へ行く人はいないか?」と声を上げる人を見かけることがあります。これは「タクシーでの移動を見知らぬ誰かとシェアすれば、移動コストを抑制できる」ということなのです。

 こうして考えると、日本の報道でしばしば見かける「タクシー対ライドシェア」という対立構図は必ずしも必然ではなく、共存共栄を目指すこともできるのではないか、と思えます。

 もちろんどの国でも「ライドシェアは白タクと同じではないのか?」という疑惑は残ったままですが、それでも使い勝手が同じならば安い方がうれしいというのは当然の消費者心理です。しかし、従来のタクシーの手厚いサービスに安心感を覚える人も多いことでしょう。

 これは民間航空業界と似たような構図かもしれません。短距離路線では幾つものLCC(ローコストキャリア)が台頭してきましたが、旧来のFSA(フルサービスエアライン)が一気に淘汰(とうた)されてしまうという事態にはなっていません。これはFSAが、LCCとは異なった魅力を打ち出すべく、さまざまな努力を続けているからです。

 タクシーとライドシェアの関係も似たようなものになり、それぞれにサービスを競うようになるというのが健全な姿なのではないでしょうか。

 すでに日本でも、配車アプリを展開するタクシー事業者が出始めています。しかし当然ながらウーバーなどとは異なり「タクシーよりも安く移動する」という選択肢はありません。仮に、日本でも米国のようにライドシェアの登録ドライバーが大きく増えたとしたら、現在のタクシー配車アプリはサービス内容を見直さない限り、一気に競争力を失うことになるでしょう。

ライドシェアでクルマは売れなくなるのか

 ちなみに「ライドシェアが普及するとマイカーの必要性が下がり、クルマがもっと売れなくなるのではないか?」といった危惧を抱く人もいるかもしれません。確かにその可能性はゼロではありません。

 しかしライドシェアはあくまで、数ある公共的な移動手段の1つです。また個人所有の乗用車あってのサービスですし、その数が多いほど利便性が高くなるということを忘れてはいけないのではないでしょうか。

 米国ではライドシェアの浸透を受けて、登録ドライバーには新車を割安でリースするというビジネスが出現しています。登録ドライバーばかりでなく、相乗りするさまざまな人にもブランドの魅力を伝える機会にできると捉えているわけですね。従来なかった新しいビジネスは、とかく既存プレイヤーとのあつれきを生むもの。しかし同時に、他の新しいビジネスの可能性をもたらすものでもあるのです。

 いま世界各国で、ライドシェアの法的な位置付けを明確にしようとする動きが活発化しています。ライドシェア用の保険商品も登場するようになってきました。日本でもこの流れに乗って、新しい移動サービスとして普及が進んでほしいものです。

筆者プロフィール

古庄速人(ふるしょうはやと)

工業デザイナーを目指し、専門学校の自動車デザイン学科に入学。修了後はカーデザイン専門誌の編集に携わりながら、フリーランスのライターとしても活動を開始。現在は自動車関連誌や二輪誌、Webメディアなどで記事やコラムを執筆中。技術と感性の双方の視点から、さまざまなトランスポーテーションのデザインをチェックしている。また新しい「乗り物」や新興国のモータリゼーションに強い興味を持ち、世界各国のモーターショーやモーターサイクルショーの視察を続けている。日本カーデザイン大賞の選考委員も務める。


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