「IoT導入の壁」をフレームワークとして活用する:先行事例から見る製造業の「IoT導入の壁」(前編)(3/3 ページ)
製造業におけるIoTの導入では、OTとITの融合をはじめさまざまな課題がある。そこで、先行事例から抽出したIoT導入に向けた整備事項、すなわち「IoT導入の壁」について、前後編に分けて解説する。前編では、6つある「IoT導入の壁」を見ていこう。
4.会社・組織の壁(組織間[企業内、企業間]のコンフリクトの調整)
IoTデータを集約して最適化を図るためには、企業内の組織間、及び、企業間での業務面でのルール整備が必要になる。
この壁に関して、解決が必要な「整備事項」として以下が上げられる。
4−①:全体最適に向けた企業内でのルール作り
従来縦割りで活動している企業内組織の中で、データを共有し、全体最適に向けて、意思決定の権限に制約を加えるためには、企業内でのルール作りが必要になる。
4−②:Win−Winの関係を作るための企業間のルール作り
利益が背反する可能性のある企業間でデータを共有してWin−Winの関係を作るには、データのセキュリティ管理や利益の裁定のための調整など、企業間のルール作りが必要になる。
5.技術・スキルの壁(熟練技術者の属人的技術・スキルの活用)
熟練技術者に蓄積された製品固有技術の知見や分析ノウハウを全体で集約・共有化し、ブラックボックス化したナレッジを見える化し、システムに組み込んで広く活用可能とすることが必要になる。
この壁に関して、解決が必要な「整備事項」として以下が上げられる。
5−①:製品固有技術の知見と分析ノウハウの集約
各部署が保有する製品固有技術の知見(ナレッジ・情報)を集約して活用できるようにする。また、それらを利用する分析ノウハウについても共有し活用できるようにする。
5−①:熟練技術者の属人的ナレッジの見える化・デジタル化
IoTの目標として、従来は高スキルの人間に依存している判断業務を、データの分析により代行することを目指している。このためには、属人化しているスキルを見える化し、システムに組み込む必要がある。
6.運用上の壁(業務プロセスの改革と継続的改善)
IoT活用を実現する上では、分析の精度や人間のデータ活用スキルを継続的に改善していくために、業務プロセスにPDCAを組み込むことが必要であり、そのための新たな役割や業務を設計し実行することが必要になる。
この壁に関して、解決が必要な「整備事項」として以下が上げられる。
6−①:分析モデルの継続的改善、精度向上
IoTを活用した分析モデルは、初めから最適化されているものではなく、データの蓄積を受けて、段階的に精度を上げていく。そのため、継続的な分析や改善のための役割や業務が必要になる。
6−①:データ分析を組み込んだ業務プロセスの設計と定着・改善
分析結果を受けて、設備設定や業務手順を継続的に判断・評価して見直し、改善していく役割や業務が必要になる。
抜け漏れの無い検討のために
これら6つの「IoT導入の壁」に基づいて、自社の現状を整理することにより、整備事項を抜け漏れなく抽出することが可能となる。現場スタッフやシステムスタッフが検討主体となると、「1.システム環境の壁」にフォーカスしがちとなってしまうが、それ以外の壁にも着目し、しっかりと整備を行わなければIoT活用として狙った効果を生み出すことが難しくなってしまうだろう。
後編では、この「IoT導入の壁」のフレームワークを生かしつつ、より具体的にIoT活用の方向性を「IoT導入計画」として落とし込むためのポイントについて解説していく。
プロフィール
久野 俊一(ひさの しゅんいち)株式会社日立コンサルティング 産業コンサルティング本部 シニアマネージャー
外資系大手コンサルティング会社2社でプロジェクトマネージャー/SCMサブジェクト・マター・エキスパートとして活動した後、2010年に日立コンサルティング入社。SCM計画領域のエキスパートとして、数々のグローバル製造業の改革支援コンサルをプロジェクトマネージャーとして担当。2014年度からは日立コンサルティング所属本部の「IoTを活用したモノづくり変革とサービス化」プロジェクトの中核メンバーとして参画。「IoT構想策定コンサルティング」手法の開発を担当。生産領域を中心としたスマートファクトリーなど、IoT構想改革に日立社内外で参画。
http://www.hitachiconsulting.co.jp/
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 製造業のIoT活用、他社に“差”をつける考え方
製造業で活用への注目が集まるIoT。しかし、具体的にどういう取り組みを計画すべきなのか戸惑う企業が多いのではないだろうか。また、IoT活用を企業としての利益に結び付けるにはどうしたらよいかという点も悩ましい。本連載「もうけを生む製造業IoTの活用手順」ではこうした製造業のIoT活用のポイントを解説していく。 - モノよりもうかる? サービス領域に対するIoT活用の考え方
製造業で活用への注目が集まるIoT。しかし具体的な成果を生み出すために、どういった取り組みを計画すべきなのか戸惑う企業が多いはずだ。こうした製造業のIoT活用のポイントを解説していく本連載の第2回目では、サービス領域へのIoT活用についての具体的なアプローチ方法について解説していく。 - IoTで生産革新、成功の鍵はマスター管理の精度にあり
製造業で活用への注目が集まるIoT。しかし具体的な成果を生み出すために、どういった取り組みを計画すべきなのか戸惑う企業が多いはずだ。こうした製造業のIoT活用のポイントを解説していく本連載の第3回では、生産革新領域へのIoT活用のポイントについて解説する。 - IoTは導入企業の過半数で「投資対効果ある」段階に
ボーダフォンが世界17カ国、9業界の約1100人の企業経営幹部を対象にIoTの普及を調査した「ボーダフォンIoT普及状況調査レポート2016」をまとめた。既にIoTは「導入するかどうか」を超え「どのように導入するべきか」のフェーズに突入しているという。 - 国内におけるIoTの取り組み状況調査、ほぼ半数は「限定的導入」
IDC Japanは、国内におけるIoTの取り組み状況について調査を実施した。結果を分析したところ、国内IoTユーザー企業のほぼ半数は「限定的導入」(5段階中、下から2番目)の成熟度にとどまっていることが分かった。 - 先端IT技術利用動向調査――国内製造業のIoT導入は加速する見込み
IDC Japanは、国内企業における先端IT技術活用事例の調査結果を発表した。製造業の大企業ではIoTの活用が加速していくこと、中堅中小企業においても活用が広がっていることを示唆する結果となった。