第4次産業革命が起こす価値の創造、新たな羅針盤は「デザイン志向」:製造マネジメント インタビュー(2/2 ページ)
第4次産業革命により製造業のビジネスモデルは大きく変化しようとしている。しかし、日本の製造業では技術論や工場内革新などで終始し、新たなビジネスモデル構築で苦戦する様子が見える。その中で急浮上しているのが「デザイン」の持つ力を見直す動きだ。経済産業省で「第4次産業革命クリエイティブ研究会」を推進する商務情報政策局 生活文化創造産業課 課長の西垣淳子氏に話を聞いた。
なぜデザインが重要なのか
MONOist デザインや創造性と第4次産業革命は一見すると関係がなさそうにも見えますが、なぜこの関係を重視しているのでしょうか。
西垣氏 新たなビジネスモデルというのは、ユーザーに新しい価値をどのように生み出すのかということである。これはユーザーの新たな体験をどう作り出すのかと言い換えることができる。これはデザイナーの発想に非常に近い。これがデザイン思考(デザインシンキング)である。デザイナーの発想は全てこのユーザー体験を軸に考えるため、イノベーションの創出や問題解決の手段として注目されている。
デザイン思考では、まずユーザーの観察や共感からスタートし、その行動を抽象化して定義する。その定義された行動に対し新たな価値を発想し、実験や評価の過程を回転させて、体験を作り出していく。ユーザーのニーズを把握するのにアンケートやインタビューなどの手法を取ることもあるが、基本的にはユーザーから直接的に得られるのは顕在化したニーズであり、潜在的なニーズというのを把握することはできない。
第4次産業革命でも同様のことが起こっている。IoTによる新たなデータを活用したビジネスモデルは現状では存在しないので、いくらヒアリングを行っても新たなビジネスモデルは生み出すことはできない。実際に「第4次産業革命 人材育成推進会議」で行った有識者からのヒアリングでも、当初はデータ分析などの技術的な側面が注目されていたが、昨今の課題はそうしたIT人材の問題だけでなく、全体をグランドデザインできる人材がいないことが課題だとする意見も出てきている。
同様に、第4次産業革命クリエイティブ研究会で行ったIoTに熱心な企業に対して行った調査では、よりデザインの範囲を広く捉えるという傾向が出ていた他、デザインの範囲を広く捉えた企業ほど売上高を成長させているという相関関係があった。まさにデザインをベースとした「コト作り」をどう実現するかということが、今後の新たな成長のポイントになっているといえる。
B2Bにこそデザインの価値
MONOist デザインの価値はB2Cだとイメージしやすいですが、B2Bでも新たな可能性を生み出せるものでしょうか。
西垣氏 最終的なエンドユーザーの体験をイメージしてそこからどのような価値をデザインするかということを考えれば、B2Bでも全く新しい価値を生み出すことができる。B2Bビジネスでも最終的にはエンドユーザーと触れ合うことになるためだ。エンドユーザーが価値を認めてくれれば、直接の取引先である顧客企業からの評価も得られるはずである。顧客企業のためではなくエンドユーザーの価値をイメージして提案するだけで、従来になかった発想の製品が生み出せる可能性が生まれる。第4次産業革命クリエイティブ研究会では2017年3月9日に成果報告会を開催するが、その中でもB2B企業の多くがデザイン思考の価値を訴えている。むしろB2B企業の方にこそ大きなチャンスがあるかもしれない。
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