IoTが生み出す深さ、製造業は顧客のビジネス全体を支援する時代へ:MONOist IoT Forum 大阪(前編)(2/2 ページ)
MONOistを含むITmediaの産業向け5メディアは、セミナー「MONOist IoT Forum大阪 IoTがもたらす製造業の革新 〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜」を開催。同セミナーのレポートを前後編に分けてお送りする。
“標高11m”で実現するスマートファクトリー
主催者特別講演として登壇した、オムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 商品事業本部 企画室 拡業推進部長 本条智仁氏は「"i"が織りなす オムロンの製造現場革新」をテーマに、自社が展開する制御機器をIoTで進化させるとともに、自社工場でのIoT活用の実践事例について紹介した。
オムロンでは、1970年に社会と科学、技術は相関性を持って変化することを説明する未来予測論「SINIC理論」を提唱し、現在も経営の羅針盤として活用している。このSINIC理論によると、現在は情報化社会から最適化社会に移ろうとしている状況で、今後は自律社会に向かうとしている。本条氏は「この自律社会がまさにインダストリー4.0や第4次産業革命として描かれている世界であるといえる。その手前に人とロボットが協調して働くような最適化社会がある」と述べている。
この中でオムロンではFA(工場向けオートメーション)などを含む制御機器を中心に製品を展開。センサーなどの入力機器(In)、コントローラーなどのロジック関連機器(Logic)、入力に対して作業に反映させる出力機器(Out)に加え、安全性関連機器(Safety)と、新たに買収により加えたロボット(Robot)の「ILO+S+R」を主力として展開している。
インダストリー4.0やIoTなどの登場により、さまざまな領域で変化の動きが出てきているが、本条氏は「基本的なモノづくりのニーズは変わっていない」と述べる。変化したものとして大きいのは、技術的要素の変化であるとし、ICT(情報通信技術)の飛躍的進化を訴えている。「通信速度やビッグデータを扱う仕組み、クラウド、ロボティクスの進化や人工知能(AI)関連技術など、技術的な革新により、従来よりも大幅に低いコストで、求める効果が得られるようになった。オムロンとしては、こうした技術を汎用的な制御機器に埋め込んでいくことで価値を訴えていく」と本条氏は述べている。
オムロンではこうした取り組みを「高度10mのオートメーション革新」と呼んでいる※)。工場の情報を取り扱う中で、情報の粒度を高度で定義。現場のエッジデバイスを高度1m、コントローラーなどの高度を10m、生産管理システムやMES領域を100m、ERPなどの企業内の基幹システムを高度1000m、企業や工場の外に出て、クラウドの中への情報については1万mと位置付けている。オムロンではこの中で、高度1〜10mの製造現場内を自社のカバー領域と位置付け、先述した「ILO+S+R」製品群を展開していく方針である。さらに、今後は高度10mの位置するコントローラー(PLC)にAI技術を埋め込み、一次的な分析を現場の中で行うエッジコンピューティングを実現するという。
※)関連記事:オムロンの“標高10mのIoT”は製造現場を明るく照らすか
オムロンの制御機器の進化に向けた全体的な取り組みは「i-Automation」と名付けており、「integrated(制御進化)」「intelligent(知能化)」「interactive(人と機械の新たな協調)」の3つの“i”を主軸と位置付けている。
自社実践で生産性を30%向上
これらのオムロンが描く理想の工場の姿を実現するために、オムロンは自社の工場革新に向けた取り組みも推進。2014年から取り組みを開始し、現在は第3段階まで来ているという。本条氏は「取り組み当初は非常にシンプルなものから始めた」と述べる。実際に、最初は草津工場(滋賀県草津市)の基板実装ラインで開始。当時は作業日報が手書きで抜け漏れや間違いが多く発生しており、生産性を高めるために何をやればよいのか分からない状態だったという。しかし、まず装置にワークが入った時間と出た時間を自動的に記録するようにし、それを時系列に並べる「タイムライン」というシステムを導入。それにより作業が見える化でき、改善すべきポイントが見えるようになり、1年弱で生産性を3割上げることに成功したという。
第2段階で取り組んだのはこれを海外工場にも展開することだ。しかし、草津工場でのシステムはオンプレミスで組んだもので、海外で移転するときに負担が大きかった。「これをクラウドに移行し、遠隔地でも一元的に管理できるようにした」と本条氏は述べる。展開先である中国工場でも、草津工場と同様に生産性を3割上げることに成功したという。
さらに第3段階では、京都府の綾部工場における品質向上にIoTを活用することを目指した。「ファイバーセンサーはレンズや素子の部分で不良品が出やすいという状況があった」(本条氏)ため、センサーの素子の画像を分析して接着剤の塗布に課題があると分析。接着剤の塗布がうまくできないときはノズルのつまりが原因だったことが分かり、ノズルに流量センサーを付けることで、予防保全を実現できるようにした。
データ分析をさらに進化させるために、高度1万mから高度1mまでをシームレスに連携させることに取り組む。しかし、従来は工場内ネットワークとオフィス向けネットワークは別々に構成されている他、工場内ネットワークはセキュリティ面で脆弱性が残されている場合も多い。この解決策としてオムロンでは、FAネットワークとOAネットワークの間にクラウドのデータ連携領域を設け、直接それぞれのネットワークを結ぶわけではなく、データ連携だけを実現する仕組みを導入。製造現場とクラウドを直接つなぐ仕組みを実現している。「高度10mから少し飛び出した高度11mの革新だと考えている」(本条氏)。
将来的にはデータを外に出すことでベンチマークが作れるような、データ活用ビジネスの基盤を作り上げていく方針を示す。本条氏は「データを共有することで新たなイノベーションを生み出すことができる。他社平均と比較することでさらなる改善を実現できたり、リソースの最適化を図れたりする」と価値について語っている※)。
※)関連記事:オムロンがなぜセンシングデータの流通市場構築に動くのか
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