選択肢がなかった東芝、虎の子のメモリ事業を分社化し株式20%売却へ:製造マネジメントニュース
東芝は、主力のメモリ事業を分社化し、20%未満を基準として外部資本を受け入れる方針を発表した。同社は原発関連会社の買収案件におけるのれん代の減損処理で数千億円規模の損失が発生する見込みとなっており、この損失により債務超過に陥る可能性が指摘されている。
東芝は2017年1月27日、主力のメモリ事業を分社化し、20%未満を基準として外部資本を受け入れることを発表した。
東芝は2016年3月に事業計画を発表しているが、その中では、メモリを中心とするストレージ事業、エレベーターなどインフラを担う社会インフラ事業、原子力発電所などのエネルギー事業を3つの注力領域とし、これらの基盤として事業運営を支援するインダストリアルICTソリューション社とともに、主に4事業体での運営を進めてきた。
この主力事業の中で最も成長が見込まれている事業がNAND型フラッシュメモリを中心とするメモリ事業だった。しかし、その一部を手放すことになる。その背景にあるのが、原発事業の買収案件における減損である。
東芝は2016年1月にグループ会社であるウェスチングハウスを通じ、原子力発電所の建設と統合的なサービスを担う米国のCB&I ストーン&ウェブスター(S&W)を買収することを発表。企業の買収の際には、実際の資本価値に加えて、将来の利益への期待値を加味して買収価格を算定する。そのため実際の買収価格と買収された企業の時価評価資産額の差を「のれん」として計上する。S&Wの買収に際しては、当初は8700万ドルののれんを計上していたが、将来見込みの悪化により数十億ドル(数千億円)規模に拡大していることが2016年12月に明らかになった。そのため、減損処理を行った場合数千億円規模の特別損失が発生することになり、減損処理の規模によっては債務超過に陥る可能性が指摘されている。
これを回避するたには、手元の資本を増強するしかない。そのため、成長力の高いメモリ事業を分社化し、株式を売却することで、資本強化を図る取り組みに出たというわけである。東芝 代表執行役社長の綱川智氏は「メモリ事業を注力領域であるとする考えは変えない。しかし成長にはさらなる大規模投資が必要となる。現状とさらなる成長や企業価値向上を考えて、今回の選択に至った」と述べている。
今回分社化するメモリ事業会社は、イメージセンサー事業は含まないもののSSD事業は含むこととしている。一方、ディスクリート分野やシステムLSI分野についても分社化の対象とはしていない。SSDをあえて分社化する事業会社に加えた理由としては「NAND型フラッシュメモリはスマートフォンなどで多く使われているが、基本的にはコントローラーで制御して使用されている。SSDも基本的にはコントローラーでNANDをコントロールするという意味では同じで、ビジネスの形としては同じだという認識である」と東芝 代表執行役副社長の成毛康雄氏は説明する。
分社化したメモリ事業会社については「(持分法適用会社とはしない)20%未満を基準として出資を受け入れる」(綱川氏)としている。この売却益により財務基盤を強化しつつも経営の主導権を離さないというバランスを取ったといえる。
諸悪の根源への対策は先送り
これらの経営危機を招いた戦犯ともいえる原発事業については「従来はエネルギーシステムソリューションの中で最注力領域だったが変えていく。国内事業は再稼働やメンテナンス、廃炉などの現状の体制を維持するが、海外事業については新規建設は考え直す。また原子力事業をエネルギーシステムソリューション社から切り離し社長直轄の組織として見直しを進めていく」と述べている。
ただ、抜本的な対策とはいえず同様の減損リスクを他にも抱えている状況だが「(追加の対策や原発事業の方向性については)詳細は2017年2月14日の決算発表で説明する」と綱川氏は述べている。
今回の債務超過を切り抜けたとしても東芝の経営が健全化するには、現状の経営的にも将来的にも不透明な原発事業の抜本的な対策が不可欠である。しかし、原発事業は政府のエネルギー政策などとも深く関係しており、1企業としての思惑だけで方向性を抜本的に変更するのが難しい状況がある。債務超過を回避するために、2017年3月末までに自己資本を強化する必要がある東芝にとっては、市場価値が高いメモリ事業に手をつける以外は選択肢はなかったといえる。
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