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IoTは本物か?:坂村健×SEC所長松本隆明(前編)IPA/SEC所長対談(3/3 ページ)

情報処理推進機構 ソフトウェア高信頼化センター(IPA/SEC)所長の松本隆明氏が、ソフトウェア分野のキーパーソンと対談する「所長対談」。今回は、30年以上前からIoT時代の到来を予見してユビキタス・コンピューティングを提唱してきた東京大学教授の坂村健氏に、IoTの今後の方向性や可能性について聞いた。

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今求められる「アグリゲイトコンピューティング」

松本 TRONのようなオープン・プラットフォームを広めていかれただけでなく、先生は30年も前に、当時の大型機のタイムシェアリング中心の考え方から、直接ネットを介して物と物がつながって行くような世界をコンセプトとして打ち出されたわけです。

坂村 はい。今はネット環境が確立していますから、クラウドを活用して更に色々なことが考えられるようになりました。もともと私は、端末は軽くして、ほとんどの高機能な処理は全部クラウド側に持っていこう、という考えなのです。今、これだけネットの環境がうまく行ったのですから、セキュリティを含め複雑な部分はトンネリングさせて、クラウド側でやろうというのが、TRONの最近のアーキテクチャです。トンネリングさせるための暗号処理やプロトコルの設計ということに重点を置いています。

 この考え方なら、端末は軽くできる。なぜスマートフォンがここまで高くなってしまうかというと、パソコンの機能を入れてしまったからです。大体Linuxベースのものですが、こんなことをしたら高いものになり、重くなって、10万円近くになるのは当然でしょう。しかしTRONなら、Linuxに比べてメモリの消費量は何十分の一です。CPUのスピードも遅くていい。今のTRONの最先端のμT-KernelというOSでは、プロセスという考えはありません。すべてタスクベースです。リアルタイムのタスクベーススケジューリングだけやっていて、プロセス制御はやらない。やりたかったら、全部クラウドでやればいいわけです。だからリアルタイムのところだけに特化させている。それが、今非常に好評です。ですから例えばデジカメも、レンズだけのカメラでいいと言っているんです。撮った写真のデータはすぐネットワークに上げてしまえばいい。そうすればメモリもたくさんは要らないですよね。全部クラウドに上げてしまうんです。

松本 スマートフォンも、あまりにも高機能であるが故に、乗っ取られたらどうするかなど、かえってセキュリティの問題が出てきてしまっています。

坂村 そうです。更に、今のスマートフォンには、ものすごくたくさんのセンサが付いています。もったいないですよ。カメラはレンズだけにして、スマートフォンで見たらどうかと言っているんです。

松本 逆に、スマートフォンはディスプレイだけにしてしまうということですね。ディスプレイと通信だけにする。

坂村 今はどこかものの作り方が偏っています。私は、アグリゲイトコンピューティング、総体コンピューティングということを提唱して、今かなり注目されています。更にクラウドのOSについては、フレームOSということを言っている。今までのサーバのOSとは違って、色々なところから直結してくるものを、どう連携させていくのかということに重点を置いた、今までの概念と違うOSを作るべきだということです。これもかなり注目されていて、よくリファーされています。

松本 それにしても、30年経って、これだけ坂村先生の研究やTRONに日が当たって来た、その大きな理由というのは何でしょうか。

坂村 それは、最初から言っていたことが間違ってなかったということでしょう(笑)。

松本 そうなんですが、今、これだけ盛り上がっているというのは、通信のネットワークが広がったとか、色々な背景もあるのでしょうか。

坂村 考え方が間違ってなかったというのは、大変嬉しいし、私の誇りでもありますが、おっしゃるようにネットワークインフラが確実にでき上がってきたということは大きいですね。こんなものは、30年前には何もなかったのですから。インターネットもなかった。インターネットの一般開放は、1990年代ですね。私がTRONを始めた頃は、アーパネットといったものが研究されていた。実は日本でいち早くアーパネットの端末を置いたのは私の研究室なんです。東京大学の理学部が「米国の大学からの要請で共同研究を行うためネットワークでデータの交換をやりたい。助けてくれないか」というので、ハワイ大学とつなげたんです。私も理学部情報科学科にいましたからね。

松本 そうだったんですか。ネットワークの進歩もあると思いますが、それ以外では端末のコストが下がったといったことも大きいですね。

坂村 それはもう、マイクロプロセッサーが圧倒的にポピュラーになりましたからね。

松本 性能も良くなった。

坂村 TRONがうまくいった理由のひとつに、小さくした、ということがあります。6LoWPANモジュールでTRONのベースのものがあります。非常に小さい物です。

松本 通信機能が入っているのですか?

坂村 もちろん入っています。100メートルは飛びます。単三2本で1年もつ。こんなところにUNIXは入りません。

松本 コスト面では安くできるのですか。

坂村 何個買うかです。大体、今、500円でしょうか。

松本 少なくとも1ドルを切らないと、ビジネスとしては難しいという話を聞いたことがあります。

坂村 ものを買う人は、みんなそう言いますね。安い方がいいから。しかし、必要な機能が備わっていなければ、いくら値段が安くてもしょうがない。高かったから売れなかった、なんていうのは言いわけで、値段に見合う機能がなかったから売れなかったんです。それだけの話だと思いますね。

(次回後編に続く)

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